129 【お便り紹介】

おたより.mp3 五の線2終了直後(2017年)に頂いていたお便りに今更ながらの返信です…。 よかったらお聞きください。 成田ナオさん/hachinohoyaさん/踊る屍さん

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128.2 最終話 後半

126.2.mp3 「12月24日お昼のニュースです。政府は24日午前、2015年度第3次補正予算案を閣議決定しました。今回の補正予算は今年10月に国家安全保障会議において取りまとめられた「日本国の拉致被害者奪還および関連する防衛措置拡充に向けて緊急に実施すべき対策」に基づいた措置を講じるためものです。 この予算案では先ごろ国内で発生したツヴァイスタンの工作員によるテロ未遂事件を受けてのテロ対策予算の拡充として500億円。ツヴァイスタンに拉致された疑いがある特定失踪者の調査費として28億円。近年日本海側で脅威となっている外国船の違法操業対策および外国公船の領海侵入対策として海上保安庁の予算を新たに1,000億円追加します。あわせてツヴァイスタン等によるミサイルの脅威に対抗するため、新たに5兆円の防衛予算を措置します。防衛予算においては国際標準である対GDP比2%の達成を継続的に維持するため、来年度の本予算においては今回の補正予算の5兆円を既に盛り込んだ10兆円とする予定です。これで今回の補正予算における予算額は合計で5.1兆円となります。これはリーマンショック以降の補正予算としては過去最大規模のものとなり、政府はこの内の5兆円を赤字国債の発行によって財源を捻出します。 また、政府は今回の安全保障政策の拡充を図る財政政策を積極的に行うことで、現在の日銀による金融緩和政策と連携して、デフレ脱却の起爆剤にすることをひとつの目標としています。 それでは今回の補正予算についての総理のコメントです…

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128.1 最終話 前半

126.1.mp3 コミュの会場となった会館前には複数台のパトカーが赤色灯を灯して駐車していた。会館には規制線が敷かれ関係者以外の立ち入りは厳禁となっている。週末金沢駅の近くということもあって、このあたりで仕事帰りに一杯といった者たちが野次馬となって詰め寄せていた。規制線の中にある公園ベンチには、背中を赤い血のようなもので染め、遠くを見つめる下間麗が座っていた。 「ついては岡田くん。君にはこの村井の検挙をお願いしたい。」 「罪状は。」 「現行犯であればなんでもいい。」 つばを飲み込んで岡田は頷いた。 「よし。じゃあ君の協力者を紹介しよう。」 「え?協力者?」 奥の扉が開かれてひとりの女性が現れた。 「岩崎香織くんだ。」 岩崎は岡田に向かって軽く頭を下げた。 「岩崎…?」 ーあれ…この女、どこかで見たような…。 「近頃じゃネット界隈でちょっとした有名人だよ。」 「あ…。ひょっとしてコミュとかっていうサークルの。」 「正解。それを知っているなら話は早い。そのコミュってのが今日の19時にある。そこにはさっきの村井も共同代表という形でいる。」 「村井がですか?」 「ああ。」 「君には岩崎くとにコミュで一芝居うって欲しい。」 「芝居…ですか。」 「ああ。芝居のシナリオはこちらでもう用意してある。君はその芝居に一役噛んだ上で、流れに任せて村井を現逮してくれ。君らが演じる芝居が村井の尻尾を出させることになるはずだ。」 「大任ですね。」 「お疲れさん…

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127.2 第百二十四話 後半

125.2.mp3 7時間前 12:00 「1512室ですか?」 「はい。」 「失礼ですがお名前をお願いします。」 「岡田と言います。」 「岡田様ですね。失礼ですがお名前もいただけますか。」 「圭司です。」 「岡田圭司様ですね。しばらくお待ちください。」 ホテルゴールドリーフのフロントの女性は受話器を取って電話をかけはじめた。 「フロントです。ロビーにお客様がお見えになっています。はい。ええ男性です。岡田さんとおっしゃるそうです。ええ。はい。かしこまりました。それではお部屋までご案内致します。」 女性は電話を切った。 「私がご案内いたしますので、一緒に来ていただけますか。」 「え?どこか教えてくれれば自分で行きますけど。」 「当ホテルのスイートルームになりますので、私がご案内いたします。」 「スイート?」 エレベータを5階で降りそのまま廊下をまっすぐ奥に進むと、いままであった部屋のものとは明らかに作りが違うドアが現れた。重厚な作りの観音扉である。女性はインターホンを押した。暫くしてその扉は開かれた。 「おう。」 「え?」 扉を開いたのは数時間前まで捜査本部に岡田と一緒にいた、県警本部の捜査員だった。 「え…なんで?」 「まあ入れま。」 豪華な作りの玄関を抜け、いよいよ部屋の中に入るという時に岡田は異変を感じ足を止めた。 「あれ?おいどうした。」 「あの…なんか騒がしくないですか。」 「ほうや。訳あって大所帯になっとる。」 捜査員が部屋の扉を開…

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127.1 第百二十四話 前半

125.1.mp3 金沢駅近くの会館。この一階の大ホールに大勢の人間が集まっていた。コミュの定例会である。参加者は先日のものより数段多い。これも岩崎香織が電波に乗った効果なのだろうか。 「みなさん。こんばんわ!」 司会者が参加者に向かって大きな声で挨拶をするとそれに参加者は同じく挨拶で応えた。 「いやー今日は随分と参加者が多いですね。特に男性の方がいつもより多い気がします。」 彼がそう言うと参加者はお互いの顔を見合った。 「やっぱりなんだかんだと言ってテレビの影響力ってすごいんですね。試しに聞いてみましょうか。今日始めてここに来たっていう人手を上げてみて下さい。」 半数が手を上げた。 「なるほどー。じゃあ今手を上げた人たちにもうひとつ聞いてみましょうか。岩崎香織を見てみたいって人は手を上げてみて下さい。」 全員である。 「いやー岩崎人気はすごいですね。」 ステージの裾の方にいた村井は腕時計見目を落とした。そして側にいたスタッフに声をかける。 「インチョウは。」 「駄目です。携帯の電源が切られてます。困りましたね。」 「…何なんだよ。こんな大事な時に。」 「連絡が取れんがですから。仕方が無いっすよ。村井さんがインチョウの代わりにこの場を仕切るしかないっす。」 「俺がか?」 「ええ。そのための共同代表っしょ。」 「まあな…。」 こう言って村井はステージ袖の奥にひとり佇む女性の側に駆け寄った。 「岩崎。」 「あ…はい…。」 「おまえインチョウのこと知らいな…

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126.2 第百二十三話 後半

124.2.mp3 「若林くん。朝倉部長に聴かせてあげろ。」 「はい。」 携帯電話を取り出した若林もまた、応接机の上にそれを置いた。 「工夫しろ若林。」 「あまり事を荒立てるなといっただろう。」 「ですが、あまりに突然のことでしたので。」 「その後の工夫が足りんと言ってるんだ。」 「はっ。もうわけございません。」 「しかしお前は籠絡だけは上手い。」 「ありがとうございます。」 「だが程々にしておけよ。あまり深入りすると足がつく。」 「何せ公安の奥方ですからね。」43 音声を聞いた片倉の表情が変わった。 「公安の…奥方…?」 「なんだ若林。」 「今もまだベッドでぐっすり寝ていますよ。そろそろ帰らないといけないんですが。」 「くくく…。」 「いやぁ40しざかりって本当なんですね。」 「そうか…。そんなにか。」 「ええ。ちょっとこっちが引くくらいでした。」 「はははは。この下衆男め。」 いつになく朝倉の表情が豊かである。 「部長。これは仕事です。」 「ああわかっている。からかってすまなかった。」 「こっちも必死なんですよ。何とかして奮い立たせないといけませんから。」 「ふふふ...今日のお前は愉快だな。自分の思い通りにアレを制御できるってのは俺にとって羨ましい限りだ。若さだな。」 「若さですか?」 「いや、特殊能力といったところか。」 「特殊能力?何のことですか?」 「…あ…いや…なんでもない。」 「お褒めの言葉として受け止め…

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126.1 第百二十三話 前半

124.1.mp3 ドアをノックする音 「来たか。」 朝倉はドアに向かって部屋に入るよう言った。 長身の男がドアを開け、ゆっくりとした動作で部屋に入ってきた。 「え…。」 片倉の存在に気がついた男は思わず立ち止まった。 「なんでお前がここに…。」 「これは…どういうことなんや…。」 「部長。これはどういうことですか。」 男は不審な顔で朝倉を見るが彼は意に介さない。 「片倉。この男に見覚えがあるだろう。」 「…え…。」 「紹介しよう。直江首席調査官だ。」 朝倉は直江に片倉に挨拶をするよう促した。 「…直江真之です。いつぞやはお世話になりました。」 「直江…やっぱりあん時の…。」 「朝倉部長。これはいったいどういうことですか。」 直江の顔には朝倉に対する不信があからさまに出ていた。 「貴様の代わりだよ。」 「え?」 「モグラは退治しないとな。」 「モグラ?」 朝倉のこの発言に片倉は絶句した。 「え…。」 「調査対象であるコミュに調査員を派遣させるも、奴らは常にそれを察知していた。」 「なんやって…。」 「公調の動きがどうも奴らに筒抜けになっている。そう考えた俺は警察を装って内密に金沢銀行にコンドウサトミの捜査事項照会書のFAXを送った。」 「…。」 「俺は敢えて週末の業務時間終了後にFAXを送った。それが関係部署の人間の目に止まるのはおそらく週明け月曜の朝。その間、銀行は閉まっている。だがすぐさまその情報は今川らに周った。だから金沢銀行であ…

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125 第百二十二話

123.mp3 霞が関合同庁舎の前に立った片倉は、登庁する職員に紛れていた。皆、言葉も何もかわさずただ黙々と歩き続ける。立ち止まった彼はおもむろに携帯電話を取り出して電話をかけた。 呼び出し音 「片倉です。おはようございます。」 「おはよう。いまどこだ。」 「公庁の前です。」 「なに?予定は15時だぞ。」 「なにぶん不慣れな東京です。昨日の夜金沢出て車で休み休み来ました。」 「車?」 「はい。これがあと半年先ですと北陸新幹線で2時間半とちょっとでここに来ることができたんかもしれませんが。」 「北陸新幹線な…。」 「まぁ部長との予定の時間まで随分ありますから、それまでどっかのネットカフェで休憩でもとります。」 「待て。せっかく来たんだ。俺の部屋まで来い。」 「え?」 「こっちも遠路はるばるお前が来るから、何かおもてなしをしないとと思って、その準備をしようとしていたところだ。」 「そんな…気を遣わんでも…。」 「こんな時間にまさか貴様が来るとは思わなかったから、何の準備もできていないが、空調が効いた部屋にいるほうがお前も疲れがとれるだろう。」 「あ…いいんですか?こんな田舎のいちサツカンが部長の部屋で休憩をとるなんて。」 「いい。俺の部屋は治外法権だ。」 「ふっ…。」 「なんだ。」 「じゃあお言葉に甘えさせてもらいます。」 「話を通しておく。そのまま庁舎に入って受付に案内してもらえ。」 「はい。」 携帯を切った片倉は拳を握りしめた。 「治外法権ね……

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124 第百二十一話

122.mp3 「下間確保しました。」 「了解。」 「これからマサさんと下間の通信手段を抑えます。」 「わかった。くれぐれもホンボシに感づかれないように注意しろ。」 「了解。」 土岐は無線を切った。 「いい流れだね。」 「はい。」 県警本部長室の中には各種無線機が並べられ、数名の捜査員が詰めている。その中で本部長の最上と警部部長の土岐は向かい合うようにソファに掛けていた。 「七里君は?」 「安全なところに匿っています。」 「江国は?」 「情報調査本部の取調室です。今川逮捕と橘刑事告発の話を聞いてシステム改竄についてすぐにゲロしました。」 「ほう。」 「今川から県警システムの受注話を聞いたときから、鍋島の指紋情報を都合よく改竄できるよう細工を施していたようです。」 「そうか。」 「HAJAB成長の鍵を握っていた今川を抑えられ、金沢銀行システムの斡旋窓口だった橘がやられたとなると、流石に江国もどうにもならずに早々に敗北を認めたというところですか。」 「そういうところだろうな。」 「それにしても一色貴紀という男をとりまく人物のその…絆とでも言うんでしょうか…。どうしてここまで人を動かすんでしょうか。」 「七里君の件か?」 「はい。七里は熨子山事件当時、一色の車に搭載されていたGPS発信機を自分の車に載せるよう自ら一色に進言。朝倉に対する陽動作戦を決行しました。作戦は功を奏し朝倉は独断で熨子山事件の犯人は一色であると決め、帳場を設置。捜査の早期終結を図る方針を…

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123 第百二十話

121.mp3 「ご苦労さん。トシさん。今どこや。」 「病院や。」 「傷は。」 「幸い大した事ない。」 「…良かった。いきなりガサッっていってトシさんうめき声出すんやからな。」 「ふっ。ワシも長いサツカン人生で撃たれたのは初めてやわいや。こんでしばらく手は上がらん。」 「痛いんか。」 「あたりめぇや。だらほど痛いわ。」 「ほんだけ元気があるんやったら、すぐにでも復帰できそうやな。」 片倉は煙草を咥えた。 「トシさんを撃って、すぐさま鍋島の頭を撃ち抜く。悠里のやつここまでの腕を持っとったとはね。」 「あぁ得物はVSSらしい。」 「VSS?」 「あぁワシはその手の重火器についてはよく分からんが、SATの詳しい奴が言うにはロシア製のもんらしい。なんでも開発時に要求されたんは「400メートル以内から防弾チョッキを貫通する完全消音狙撃銃」。(出典https://ja.wikipedia.org/wiki/VSS_(狙撃銃))悠里が狙撃をしたんは丁度400メートル離れたマンションの屋上。そこから射程ギリギリの標的を見事狙撃するわけやから、あいつの腕は恐ろしいもんやと。」 「ほうか…。」 「こんだけの腕をもった連中がツヴァイスタンの秘密警察にうようよしとる。そう考えると背筋が寒くなるわ。」 片倉は煙草の火をつけた。 「まぁ便利な世の中になったもんや。」 「あん?」 「ワシはネットのこととかよく分からんけど、ワシの目の前で起こっとる状況を音声だけとは言え、こんだけお前に…

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122 第百十九話

120.mp3 「こいつとお前を殺す。」 銃口を向けられた古田は微動だにしない。 「…心配するな一瞬だ。」 「ふっ…。」 「なんだ。」 「最後の最後でチャカか。あ?鍋島。」 「なんだてめぇ。」 「お前は散々人を殺めた。その手口は全て絞殺もしくは刺殺。チャカは使わん。そんなお前がここにきてチャカを手にした。」 「だから何なんだ。」 「相当切羽詰まっとれんな。」 「うるさい。」 古田は右拳を鍋島に向けて突き出した。 「あん?」 「鍋島。これに見覚えがあるやろ。」 そう言うと古田は握りしめていた右手を開いた。 それを見た鍋島の動きが一瞬止まった。 「村上が使っとったジッポーや。」 「それがどうした…。」 「お前が目指した残留孤児の経済的自立。それを支援しとった村上のな。」 「言うな。」 「お前が金金言うとる横で、村上は仕事を斡旋したり本当の意味でのあいつらの自立支援に取り組んどった。自分の金を持ち出してな。」 「…。」 「熨子山の塩島然り、相馬然り。村上の世話になった人間は数しれん。」 「相馬…だと…。」 「それがどうや。お前はそんな村上を殺した。それがもとで相馬は会社を厄介払いされた。そん時あいつは誓ったよ。たとえそれが誰であろうと、村上を殺した人間は絶対に許さんとな。」 「…。」 「お前は相馬に間接的に経済的援助をしとったつもりなんかもしれんが、どんな理由があれそれこそ偽善。エゴや。お前は今川や下間によって設計された人間や。ほやけどそんなお前…

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121.2 第百十八話 後半

119.2.mp3 「えっ?何やいまの声…。」 職員室の応接ソファーに座っていた相馬が声を上げた。 「追い詰めとるんや。」 「え?」 相馬達の輪の中にひとりの中年男性が居た。ぱっと見は社会科の先生のようである。 「佐竹と古田。この2人が鍋島の頭ン中を引っ掻き回しとる。」 「頭ン中を引っ掻き回す?」 「ああ。鍋島は普通じゃねぇ。普通じゃねぇ奴を相手にすっときはこっちも普通じゃねぇ感じでいかんとな。」 「でも…。」 相馬はあたりを見回した。物々しい無線機材が並び、スタッフが何かの指示を出している。 「あん?これか?」 「ええ。これだけ警察の人らがおればどんな人間でも手も足もでんでしょ。」 「まぁな。」 「でもなんで刑事さんらがここで待機しとるんですか。」 「さっさと鍋島確保しろってか。」 「え…あの…。」 「そりゃいつでもできる。けど佐竹も古田もオトシマエつけんといかんって言っとるんや。ここまで来るにはあいつらの力もでかかったからな。それくらいはあいつらの好きなようにさせんとな。」 「そのオトシマエって何なんですか?」 「知らん。お前さんこそ知らんがかいや。」 「あ…ええ…。」 「まぁ話があるんやろ。話してどうこうなるもんじゃねぇけど、なんちゅうか話して自分の気持を本人にぶつけんことにはどうにも収まらん。そんなところやろ。」 そう言うとこの捜査員は装着しているイヤホンに指を当て眉間にしわを寄せた。 すっくと立ち上がった彼はそのまま窓の方に向かった。背伸…

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121.1 第百十八話 前半

119.1.mp3 「さ…さたけ…。」 鍋島の後方2メートルで木刀を手にした佐竹はサングラスをかけている。 「頭が痛いか?鍋島。」 自身の頭部を手で抑える鍋島を佐竹は遠い目で見つめた。 「別に…。」 「まぁ…お前に破滅に追い込まれた人間に比べれば、その痛みはクソみたいなもんだから我慢しろ。」 「て…てめぇ…。」 「その頭、昔っから出来が良かったよな。」 「あ…ん?」 「出来が良すぎて、一色の教えることすんなり覚えて、日本語も上達して、俺らなんかより難しい本読むようになって、テストでもいつも俺らより良い点取ってた。」 「…お前らのような愚民とは構造が違うんだ。」 「確かに構造が違う。普通の人間なら自分の邪魔をする存在すべてを、この世から消し去るなんて発想はできたとしても実行に移すなんてことはできやしない。お前は頭の構造も行動力も身体能力もおれら凡人のものとは違う。」 「ほう。珍しいな佐竹。お前が俺を褒めるなんて。」 「褒める?」 「あぁ。」 「勘違いすんなこのクソ野郎。」 「あん。」 「俺はお前を褒めてんじゃねぇんだよ。」 「けっ意味わかんねぇ。」 「そんだけすげぇ能力を持っていながら、その使い道を明後日の方に使ってしまったお前自身はクソだって言ってんだ。」 「なにぃ…。」 佐竹はポケットから折りたたみ式の古い携帯電話を取り出した。 「これ一色の墓の側に落ちてたぞ。」 「落ちてたじゃねぇだろ。着信あって赤松と二人してびびってたくせに。」 「ああビ…

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120.2 第百十七話 後半

118.2.mp3 北高の校門を潜ると、そこには職員のものと思われる車が何台か並んでいた。その中の一台の車を見て鍋島は動きを止めた。 ー佐竹の車…。 車のエンジンは切られ、中には誰もいない。 深呼吸をした彼は周囲を見回した。顔を上げた先に見える職員室には1時半という時間にもかかわらず、煌々と電気が付いている。 ー職員にバレないように学校の中に侵入なんてできっこない。あいつ...どこにいる…。 鍋島は物陰に身を潜めた。 ー深夜の学校で人目につかず待機できる場所…。グラウンド側から回りこんだクラブハウス周辺か…。 彼は校舎の壁に沿って最も闇が深い場所を伝うようにグラウンドの方に移動した。 ーん? 鍋島の視線はグラウンドの中央を捉えた。 ー本? サングラス越しに目を細めた彼はそこに落ちている一冊の本を見つめた。 ーいやまて...これもあいつなりの罠かもしれない。 視線を逸らした鍋島は足を進めた。 「おやおや。」 ーなんだ…。 「なんじゃいやあれ。」 男がひとり言を言いながらポケットに手を突っ込んでグラウンドの中央に向かっていく。鍋島は動きを止めて闇と同化し、男の背中を見つめた。 ー職員か? 「誰ぃや。こんなグラウンドのど真ん中に本なんか放ったらかして。」 ーひとり言が激しい奴だな。 男は本を手にとった。 「なになに...MKウルトラ異聞…。」 ーな…。 「なんじゃいMKウルトラって…。」 男は鍋島に背を向けたまま本をめくりだした。ブツブツと何かをつ…

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120.1 第百十七話 前半

118.1.mp3 「思いっきり泣いて少しは気が済んだか。」 落ち着きを取り戻しつつある麗にこう声をかけると、彼女はかすかに頷いた。 「お前さんの扱いはワシの管轄じゃない。然るべき人間があんたを待っとる。」 そういうと古田は時計に目を落とした。時刻は1時15分である。 「佐竹さん。やわらやと思います。」 「いよいよですか。」 「この子らは安全な場所に移動させたほうがいいかと。」 佐竹は頷いた。 「相馬くん。」 「はい。」 「君らは今から職員室の方へ移動してくれないか。」 「え?職員室ですか?」 「うん。」 「え...でも…。」 「さっき古田さんが言ったように、君たちはこの北高にいれば安全だ。だけど万全を期すために職員室で待機していて欲しい。」 「って言ってもいつまで…。」 「鍋島とのケリがつくまで。」 「ケリがつくまで…。」 「何日も職員室にいろって言うんじゃない。また朝になればここはいつものように学生が来て授業が始まる。それ迄にはなんとかする予定だよ。」 「え…待ってください佐竹さん。ってことはやわら鍋島さんがここに来るってことですか。」 「…そうだ。」 「え...なんで…。警察が血眼になって探しとるはずの男が、なんでここに。」 「余計な詮索はやめてくれ。時間がない。君らは直ちに職員室へ向かうんだ。」 「大丈夫ですよ相馬さん。職員室にいけばなんとなく事情は掴めると思います。」 「え?」 「さあ早く。」 相馬は京子と長谷部の顔を見た。彼らな…

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119.1 【お便り紹介】

お便り 東京から聞いていますさん.mp3 今回は東京から聞いていますさんのお便りを紹介します 五の線60話/iPhone4/五の線2の過去エピソード視聴について/音声メディアについて/寒さ/このお話のオリジナルについて/

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119 第百十六話

117.mp3 「お待たせしました。」 剣道場の中にいた者たちは咄嗟にその声の方を見た。 「あぁ古田さん。」 佐竹が答えると、古田もまた道場の正面に一礼してその中に入ってきた。 「遅くなってすいません佐竹さん。ちょっと仕込みがありまして。」 「首尾よくいきましたか。」 「さぁ…どう転ぶかは運を天に任せるだけですわ。」 「あなたが古田さん…。」 相馬は思わず声を発した。古田は彼の前に立って口を開く。 「はい。私が古田です。相馬さんこの度はご連絡ありがとうございました。」 「あ…あの…。」 「さっきも電話で言ったように、あなた達4名の身の安全はこれで確保されとる。」 「え?」 「ここにあんたらを呼んだのは、ここが一番安全やからや。」 「え?どういうことですか?」 「まぁそのあたりは深く聞かんといてま。」 「あ…ええ…。」 「さて…。」 そう言うと古田は剣道場に胡座をかいて座った。 「相馬周さん。片倉京子さん。」 「はい。」 「はい。」 「お務めご苦労様でした。」 古田のこの言葉に2人は口をあんぐりと開けた。 「一色貴紀からの指示を忠実にこなしてくださって、私としてもお礼を申し上げます。」 そう言うと古田は二人に向かって深々と頭を下げた。 「ちょ…待って…。」 「急な要請とは言え、囲碁で培った戦略眼を活かし、2人の見事な連携プレーで長谷部さんと下間さんを結びつけ、僅かな期間で下間さんをあちら側から引っ張り出した。」 「え?」 「え?」 こ…

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118 第百十五話

116.mp3 「相馬君。」 「はい。」 「君は熨子山事件に関心を示しているんだったね。」 「え?」 「一応、僕の耳に入っているよ。」 「そ、そんなことまで…。」 「済まないな。俺らの代のいざこざに君たちまで巻き込んでしまって。」 「…。」 「相馬くんだけじゃない。片倉さんも長谷部君も下間さんも。」 その場にいた四人は佐竹と目を合わせないように顔を伏せた。 「だけどもうすぐ決着をつけるから、心配しないで。」 「え?どういうことですか?」 「鍋島と決着をここでつける。」 「え!?」 佐竹は携帯電話を取り出した。 「つい数時間前からSNSで拡散された『ほんまごと』。こいつの存在を君は知っているよね?」 「え?」 「熨子山事件は終わっていない。真犯人は鍋島惇だ。」 「さ・佐竹さん…。」 「ここに書いてある熨子山事件のレポートは、確度の高い情報だよ。ただ鍋島の背後にツヴァイスタンが絡んでいたっていうのは俺も知らなかったけどな。」 咄嗟に麗は佐竹から目をそらした。 「まぁ俺にとってはあいつの背景がどうだとかは、はっきり言ってどうでもいい。熨子山事件は村上と一色、この俺の同期ふたりが死んでいる。そしてその戦友の死に鍋島が深く関与している。この事実だけで充分だ。あいつから直で事情を聞かないといけない。」 「事情…ですか。」 佐竹は頷く。 「ああ事情を聞く。」 「事情を聞いてどうするんですか。」 「決まってるだろ。一色がやろうとしていたことを俺が代わってや…

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117 第百十四話

115.mp3 どんな鬱陶しい気候でも涼し気な顔の鍋島であるが、今の彼は苦悶に満ちた表情であった。 「はぁはぁ…。」 山頂から金沢北高側の獣道を暫く降りると開けた場所に出た。 ポッカリと大きな穴が開いているようにも見える、その漆黒の空間に白いペンキの跡が見受けられる。それは闇の天空に浮かび上がる月明かりの仕業だった。 「え…。」 鍋島の目にあるものが飛び込んできた。一件の朽ちた小屋である。 ーな…なんだ…。ここもあの時のままじゃないか…。 月明かりは小屋の側にある一台の原動機付自転車とセダン型の自動車を薄っすらと照らし出していた。 「ぐっ…。」 またも強烈な痛みが彼の頭部を襲う。心臓が脈打つ度に拳銃で頭を撃ち抜かれたのではないかと思われるほどの痛みと熱が走る。 「クソが…。クソが…。」 呻き(うめき)声を発しながら、鍋島はその場に跪いた。 3年前 「おい!鍋島!」 鍋島に抱えられていた一色が崩れ落ちるようにその場に倒れた。そこには変わり果てた穴山と井上がある。 「村上。引くことは許されん。俺は一色を別のところで始末する。穴山と井上への犯行は一色のものだと工作しておいてくれ。後で落ち合おう。」 そう言って鍋島は凶器のナイフとハンマーを床に落とした。 「そのナイフとハンマーに一色の指紋を付けろ。」 「え?」 「いいから早くしろ。」 「…おい…。鍋島…もういいだろ…。」 「は?」 「お前…自分が何やってんのかわかってるのか?」 「どういう意味だ…

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116.2 第百十三話 後半

114.2.mp3 重い木製の引き戸を開き、壁に埋め込まれた照明スイッチを押すとそこは剣道場だった。 「相変わらず(゚ν゚)クセェな。」 剣道場から醸し出される独特の臭気に、佐竹は渋い表情を見せた。 「あれ?」 「なんです。」 「へぇ道場にエアコン入ってんだ。」 そう言って彼はそれの電源を入れた。 「あ、俺のときにはもう入っていましたよ。」 「あ、そうなの。」 佐竹は道場正面に礼をして中に入った。相馬と京子もそれに続いた。 「おい相馬。」 「あ?」 「俺らもいいんか。」 「おう。一応正面に礼して入ってくれ。」 「え?こうか?」 ぎこちない様子で相馬達の動きを真似た長谷部と麗も中に入った。 「ねぇ相馬君。なんでこの部屋に入るのにお辞儀なんかするの。」 麗が尋ねた。 「え?」 相馬は固まった。そこに何の意味があるかなんて今まで考えたこともなかった。 「下間さんだったね。この手の道場に入るのはじめて?」 佐竹が麗の質問に答えた。 「え…はい。」 「はっきりとした解説はできないんだけど、この場所を使用させていただきますっていう素朴な気持ちの表明だって俺は聞いたことがある。」 「え?誰も居ないのに?」 「そう。ほらよく八百万の神って言葉があるだろ。自然界の万物にはすべて神が宿っているって。この道場にもそういった神様がいて、いまからこの道場を使わせていただきます。なので使用している間は怪我や事故などが起こらないよう見守っていて下さいって会話をすることなん…

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116.1 第百十三話 前半

114.1.mp3 ー見てられない…。お前…おまえは…クソだ…。 ー村上…。 心臓の鼓動と併せて激しい痛みが襲う頭を両手で抑えながら、鍋島は目を瞑った。 3年前 眠りに落ちた一色をおぶり、村上を残して山小屋を出た。そして周囲を覆う雑木林の中に入っていった。 ーくそ…意外と重ぇぞ…こいつ…。 暗闇の舗装も何もされていない獣道。ぬかるんだ地面に時折足を取られながらも鍋島は淡々と進んだ。暫くすると彼は熨子山の墓地公園に出た。 ーこいつもここに眠ることになる。 「う…。」 居並ぶ墓地をすり抜けるように進んでいた彼は、ふと足を止めた。 ーいま、何か声がしたような…。 振り返って自分の肩越しに見える一色の様子を窺うも、彼は深い眠りについたままのようである。 ー気のせいか…。 墓地公園の駐車場に止めてあった車のトランクに一色を詰め込んだ鍋島は、エンジンを掛けた。ダッシュボードに表示される時計を見て彼は車を発進させた。 ー山小屋から最短で麓に降りるには一旦山頂の展望台に出て、そこから一気に駆け下りる。あの時の経験を村上が身体で覚えていればそうするはずだ。 麓に向けて駆け抜けてた鍋島だったが、ここでブレーキを踏んだ。 ー念のため確認するか…。 車を反転させ進路を麓から山頂にとった彼はアクセルを踏み込んだ。 鍋島は展望台がある山頂の駐車場に到着した。腕時計に目を落とすと時刻は0時40分だった。エンジンを切った彼は車から降りて展望台の方に向かった。 「うん?」 ふと…

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115 第百十二話

113.mp3 ーチッ…2時間後に来いって言っておきながら、どれだけ待たせてんだよ。 北高のすぐ前にあるコンビニの書籍コーナーで興味もない雑誌を手にとっていた悠里が目を落とすと、彼の腕時計は23時を指そうとしていた。 ーしかし、深夜の時間帯にも関わらず北高ってところはこんなに出入りが激しいのか。 窓越しに見える金沢北高の職員室と思われる一角は煌々と電気が灯っている。 ー鍋島のやつ、職員が残る学校なんかで何をしようっていうんだ…。 金沢北高は学生に軍隊並みの厳しい規律を課している。それと同じように、ここで働く教職員についても学生同様の激務が課せられているのだろうか。下間悠里はドットスタッフ代表取締役仁川征爾として、北高のブラック企業ぶりに閉口した。 ーなるほど…第三者がいる極めて狭い空間に自分の身をおくことで、俺に手出しをさせないようにしたのか。 広げていた雑誌を閉じた悠里は拳を握りしめた。 ー小賢しい。 悠里は缶コーヒーを買い求めてコンビニを出た。そして灰皿が設置されている箇所でそれを口につけ、あたりを見回した。 ー鍋島。残念ながら俺はその手には乗らんぞ。 前方から駐車された車に乗り込んだ悠里はエンジンを掛けた。そしてルームミラーをさっとだけ見てバックギアをいれアクセルを踏み込んだ。 「23時か…。」 長谷部が運転する車の後部座席で携帯電話を見た相馬は呟いた。 「なぁ相馬。」 「あん?」 「普通に考えてこんなおっせぇ時間に学校なんかやっとらんけ?」 「さ…

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114.2 第百十一話 後半

112.2.mp3 「ごくろうさん。」 「ったく人使い荒ぇな。トシ。」 熨子町のとある住宅の前で煙草を咥えていた古田の前に、同世代の男性が現れた。 「俺も爺さんねんぞ。もうちょっとほら、依頼する要件を吟味せいま。」 「いやいや。熨子山のプロである鈴木大先生以外に誰に頼めって言うんや。」 「けっ。」 「夜の山舐めんなってお前むかしワシに説教したいや。素人のワシが夜のあそこに入り込んだら間違いなく崖から転落、身動きとれんくなって凍死や。」 「だら。こんなクソ暑いがに凍死なんかせんわい。」 首に巻いたタオルで鈴木は顔を拭いた。 「首尾よくいったか?」 「首尾よくかどうかは分からんけど、気分は良いもんじゃねぇな。」 ペットボトルの飲料を古田から手渡された鈴木は勢い良く飲んだ。 「しっかしこんなんで本当に何かの効果あるんか?」 「さぁ…わからん。」 「卯辰山側から熨子山の山頂を通って、金沢北高に抜けるルートっちゅうけどな。本当にあいつこのルート通るんかいや。」 「分からん。ほやけど人目につかんように北高に行くっちゅうたらそのルートしかないがいや。」 「まぁ。」 腰をトントンと叩いた鈴木は暗闇に薄っすらと見える熨子山の姿を見つめた。 「しかし…鍋島がね…。」 「ああ。結局、熨子山事件は北高の剣道部連中のいざこざが原因。あすこの落とし前はあすこでつける。これに佐竹はこだわっとる。」 「それに鍋島も乗ってくるってか。」 「ほうや。」 「なんでそう言い切れる。」 …

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114.1 第百十一話 前半

112.1.mp3 「おっしゃー。」 エンターキーを軽妙に押し込んだ黒田は、天井を見つめてそのまま両腕をだらしなく垂らし、背もたれに身を委ねた。 片倉から提供されたネタを裏取りせずに、そのまま右から左へと流すだけの作業とはいえ大変な作業だ。なにせ情報量が尋常じゃない。まるで洪水のようだ。黒田は疲弊しきった脳をひとまず休ませるように目を閉じて深呼吸をした。 ーもう何も考えられない…。 彼は部屋の壁のシミを見つめた。 ー公安か…。 姿勢を正して黒田はブラウザを立ち上げた。 ーあいつらは何もかもが秘密のベールに包まれている。俺みたいなサツ回りの人間とも決して接点を持たない。それなのに片倉さんは自分から俺と接触を図っている。そう、熨子山事件以降からずっと…。 黒田は机に置かれたペットボトルのお茶に口をつけた。 ー片倉さんが俺のネットを利用した報道に共感してくれているのはありがたい。でもあの人は公安だ。思想に共感するからってだけの理由で、公安の人間がネタを俺に流してくれるだろうか…。ひょっとして俺は公安片倉肇にいいように利用されているだけじゃないのか…。 黒田は自分の顔を両手で何度か叩いた。 ーいかんいかん…。今、俺がやっていることはまさに俺が思っていた民主的な報道活動そのものじゃないか。たとえ俺が公安に利用されているとしても、俺も目的を達成している。あの人が言うようにWinWinの関係だ。 ーふっ…おかしいな…。何も考えられないって思ったはずなのに勝手に頭が動いてる。 パソ…

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113 第百十話

111.mp3 藤堂豪の行方を追う金沢北署の捜査本部にはめぼしい情報が入っていなかった。 ー発生署配備に止めろって…本部長はいったい何考えとるんや…。普通広く網かけて、だんだん狭めていくやろいや。始めっから絞って何なれんていや…。 岡田は頭を抱えた。 「課長。」 若手捜査員が岡田の前に立った。彼はスマートフォンを手にしている。 「何かとんでもない事が起こっとるみたいです。」 「あ?」 小声で囁いた捜査員は岡田にスマートフォンを手渡した。 「え…?」 それを覗き込んだ岡田は息を呑んだ。 ー何やこれ…。 「俺も知らんことがさっきからバンバン上がっとるんです。」 ーほんまごと…。これってまさか… 39 「片倉さん。」 「何や。」 「さっきの黒田の件ですけど。」 「おう。」 「大丈夫なんですか。あいつ。」 「あ?」 「藤堂の情報を流してやってくれって片倉さんに言われてあいつの顔写真とか分かる範囲で教えましたけど。今のところどういう素性の人間かはウチらでも把握できとらんがです。」 「しゃあねぇよ。分からんもんは分からんがやし。」 「いや、おれが気になっとるのは、今の段階で警察が重要参考人の素性を調べきれていないってことがマスコミに突っつかれると困るってことなんです。」 「心配すんな。黒田はそんなみみっちい報道をするのが目的じゃねぇ。それにお前なんねんて、若林のあほんだらに啖呵きって飛び出してきてんろ。そんな古巣のことなんかほっとけ。もしも黒田がそのこと…

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112 第百九話

110.mp3 自分以外誰もいないドットメディカルの廊下。暗がりの中、今川は足を引きずるように歩いていた。 ー執行部と朝倉…。どっちかをとれって言われればそれは前者以外にあり得ない…。だが…。 自室の扉を力なく開いて中に入った彼は、そこにあるソファに見を預けた。そして自販機で買ってきた缶コーヒーの蓋を開け、それに口をつけた。 甘いコーヒーが喉を伝って胃に送り届けられる。同時に糖分が染み渡り、それが血管を介して自分の脳に送り届けられるような感覚を彼は抱いた。 「はぁ…。」 思わず深い溜息が漏れた。 ー熊崎にはまだ連絡を取っていない…。朝倉にどう取り繕えばいいんだ…。 おもむろに立ち上がって、彼は再びパソコンの前に座りそれを覗き込んだ。執行部からの連絡はない。 ーなにをどう報告しても待機。自分で何のアクションも起こせないってことがこれほど不安なもんだとは…。 今川の首筋には尋常でない汗が流れていた。 ーはやく命令をくれ。 今川の席の固定電話が鳴った。 「え…。」 机の上に置かれた腕時計を見ると時刻は22時を回っている。 「誰だ…。」 今川の心臓が激しく脈打った。 ーまさか朝倉…。いや、なんであいつがいちいち俺のオフィスに電話をかけてくる…。ああ、そうか…。俺が本当に仕事をしているのかどうかを探るためか…。まて…もし朝倉だったら熊崎の件はどう報告する…。いいアイデアが浮かばんぞ…。ああ…駄目だ…頭が働かない…。だが…かと言って無視するわけにもいかない…。 今川はコ…

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111 第百八話

109.mp3 バスの中から外を眺めていた彼は丸型のサングラスを外し、ポケットの中からフォックス型のものを取り出してそれをかけた。 ーさっきからパトカーがうろついている。数が尋常じゃない…。 「おい。これ見たか。」 「なんやって。」 「え?おまえ知らんが?」 「だから何やって。」 「ほら。」 彼の前に座る学生風の男子がもう一方の男子に自分のスマートフォンを手渡した。 「熨子山事件?」 「おう。」 「え?これ何やったけ?」 「え…おまえもう忘れたんけ。」 「え、何の事件け。」 「うっそやろ…ほら3年前にあった連続殺人事件。」 「あーなんかあったな。確かあれ警察のキャリアがすっげえ人殺したとか。」 「だら。違うって。そのキャリアは殺されとって真犯人はそいつの高校時代の友人の村上って奴やってんて。」 「へーほんで。」 一方の学生は気のない返事をした。 「何け興味ないが。」 「おう。だって終わったことやろ。」 「お前、他人事やな。」 「ほんな他人の話に喰いついとっても俺になんの得もないし。」 携帯を見せた方の学生はつまらない顔をしてそれを彼から取り上げた。 「なんねん冷っめてぇな。」 「…冷てぇってお前…。」 「なに。」 「お前さ。仮に俺がもしもお前と俺の共通の友人をなんかのはずみで殺してしまったりとかしたら、どう思う?」 「へ?」 「それって他人事になるんけ。」 「え…なんなんお前。」 「この熨子山事件って、そんな高校時代の人間関係が絡ん…

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110.1 【お便り紹介】

お便り 明けと鯖さん2.mp3 今回は明けと鯖さんからのメッセージを紹介します。 一週間お休みの件/スピンオフ/体調

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110 第百七話

108.mp3 「え?相馬周が?」 「はい。突然私の家に電話かかってきて、古田さんを紹介して欲しいと。」 「…そうですか。」 「これもアレですか?」 古田は懐に忍ばせてあった封筒の中から便箋をとりだして、それに目を落とした。 「…わかりません。ほやけど西田先生。おたくの教え子がワシの素性に気がついたのは確かや。」 「そうですね。」 「一般人が警察関係者に用事があるときは何かの困り事を抱えとるって相場は決まっとる。」 「ええ。」 「市民が困っとる状況をワシは放っておけんですわ。」 「じゃあ。」 「ワシから相馬に電話します。あいつの番号教えて下さい。」 相馬の携帯番号を聞いた古田はメモを取り電話を切った。 「なんです。古田さん。」 神谷が尋ねる。 「相馬周がワシと連絡を取りたいと。」 「相馬周?」 「はい。」 「…え?さっき理事官から麗と長谷部によって拉致された可能性があるって報告が入った、あの相馬ですか。」 古田は煙草に火をつけ、深呼吸をした。 ー周が西田経由で古田さんにコンタクト…。となると拉致の線は薄いな。半強制的に連れ去られるような状況下で他者との連絡をとることなんて普通許されるもんじゃない。だがどうして下間麗はこの段階で周を連れ去ったんだ…。しかも長谷部という男の力を借りて。まわりまわって麗のほうから警察の方にコンタクトをとる形になっているじゃないか…って…まさか…。 「神谷警部。」 「あ…はい。」 「あとは警部にお任せしてよろしいでしょう…

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109 第百六話

107.mp3 次々とブログによって明らかにされた工作活動の実態に、麗は観念した様子だった。しかしその表情はどこかさっぱりとしたものだった。 「このブログに出てくるSは下間芳夫。私のお父さんよ。」 運転席に座る長谷部も、後部座席の相馬も京子も何の言葉もかけることが出来なかった。 「この中に出てくる仁川征爾は私の兄さん。下間悠里。仁川征爾は長谷部君も相馬君も見たことあるはず。」 「え?」 「コミュのインチョウのことよ。」 「ま…マジ?」 「ええ。ドットスタッフ社長。仁川征爾よ。」 「え…。」 長谷部の歯はカタカタと音を立てだした。 彼は車中でツヴァイスタン時代に兄の悠里が家政婦を殺害したエピソードを聞かされている。今読んだほんまごとの記事によると、この仁川と名乗る麗の兄は能登の漁村でも通報者を殺害した疑いがあるとのことだ。ツヴァイスタン時代の悠里の犯行は下間家の生活が家政婦によって侵害されていて、どうにもできない状況に追い込まれてのものだった。このやむを得ない事情を最大限に加味して、長谷部はなんとかそれを受け入れることができた。だが能登の件は単なる口封じだ。スパイ活動が露見する恐れがあったため、都合の悪い人物を殺めた。そしてそれを父の力を借りて見事に隠蔽した。手段を選ばない下間家の冷酷さと周到さに、長谷部は恐怖しか感じることができなかった。 恐怖を感じたのは長谷部だけではない、車中の相馬も京子も同じである。 目の前の下間麗と言う女性の兄は人殺しも厭わないツヴァイスタンの…

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108 第百五話

106.mp3 両目をこすり、首を回したところに机の上に置かれていた携帯電話が光った。 「片倉さんすいません。キャッチです。」 「手短に済ませれ。」 「はい。」 携帯を手にした黒田は表示を確認した。見覚えのない番号である。 「あー丁度いいわ。ちょっとだけ休憩させてもらうわ。終わったら電話くれ。」 そう言って片倉は電話を切った。 誰からのものか分からない電話であるが、疲労が溜まってきた黒田にとって、この電話のおかげで自分に休息がもたらされたのは間違いない。彼はとりあえずそれに出た。 「はい。」 「北陸新聞テレビの黒田さんですか。」 「…え。はい。」 「面白いネタがあるんです。」 「え?」 脱力していた黒田は思わず姿勢を正して座り直した。 「誰から僕の番号教えてもらったんですか。」 「言えません。」 「なんで。」 「言えないから言えないんです。」 黒田はため息をついた。何かの嫌がらせかもしれない。彼は適当にあしらって片倉との電話に戻ろうと考えた。 「で、なんです?要件は手短にお願いします。」 「わかりました。手短に済ませます。」 「どうぞ。」 「明日、金沢銀行が記者会見を開きます。その発表内容を事前にあなたにお知らせします。」 「え?」 「あの会社で3年前から顧客の信用情報データベースを不正に改竄していた人間が行内にいたことが内部調査によって明らかになりました。金沢銀行は先ほどその人物に処分を言い渡しました。」 「え…ちょ・ちょっと待って下さい。…

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107 第百四話

105.mp3 「ちょ…。このSってまさか…。」 長谷部は絶句した。 隣りに座る麗はため息を付き、重い口を開いた。 「凄いわね。完璧よ。」 「え?」 「私たちのこと調べあげている。」 「長谷部。その先もちゃんと読め。」 後部座席の相馬がこう言ったっため、長谷部と麗は記事を読み進めた。 <S 再び> いまから15年前の新月の暗闇の中、夜釣りに出掛けていた中年男性が妙な光景を目撃したと警察に届け出てきた。 釣り道具を抱えた高校3年程の風貌の少年が暗闇の中ひとり肩を抑えて漁村の中を歩いていたというものだ。どうやら少年は怪我をしているようで足を引きずっているようにも見えた。中年男性は高校生に声をかけた。しかし彼は見向きもしない。大きな声で呼んでも何の返事もしない。せめて足を引きずる少年に手を貸そうと中年男性は彼に近づこうとした。その時少年は振り返った。そして中年男性にこう言った。 「それ以上近寄るな。」 その時は周辺に明かりらしいものがなかったため、少年がどういう表情でこちらを見ているかはっきりとは分からなかった。ただ得も言われぬ負の力が自分の身体を覆い尽くそうとしてるということだけは、彼は感じたようだ。圧倒的な負のエネルギーに耐えかねて彼は思わず後ずさりした。気が付くと少年は海沿いの一軒の民家の前に立っていた。家の玄関に明かりがつき扉が開かれた。どうやらそれが少年の家のようである。 その時である。中年男性は家の明かりに照らされた少年の衣服を見て、異様さを感じ取った。少…

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106.2 第百三話 後半

104.2.mp3 先の記事でツヴァイスタンの工作員が登場した。彼は鍋島惇への資金提供を行い、日本国内での協力者(エージェント)として利用した。熨子山事件から横道に逸れるようだが、これを機に今一度ツヴァイスタンと言う国と工作員(スパイ)についての記事を書きたい。 <ツヴァイスタンとスパイ防止法> ツヴァイスタン民主主義人民共和国は中央アジアの共産国だ。一党独裁の政治体制を敷く共産国ネットワーク(通称CN)の主要国でもあり、基本的に自由主義経済権との国交はない。 ツヴァイスタンは自由主義陣営を敵視し、ことあるごとに自国の政策の失敗を自由主義圏の陰謀によるものとし、自国民を煽っている。この敵視政策で最も問題なのが我が国日本が主導して共産国に陰謀を張り巡らしていると定義していることにある。 ツヴァイスタンの我が国に対する工作活動は8年前の東京地下鉄爆破テロ未遂事件が記憶に新しい。テロの実行部隊は国際テロ組織ウ・ダバ。東京に地下鉄で同時多発的に爆発を起こして首都を混乱に陥れることを企図したものだった。しかし当時の公安はこれを未然に防いだ。その後捜査が進むに連れて明らかになってきたことがあった。ウ・ダバはツヴァイスタンからの多額の資金援助を受け、あの国からと指令を受けてこの事件を計画していたのである。この事実を踏まえ、時の政府はインテリジェンス機能の強化のためのスパイ防止法案を国会に提出。外国からの工作活動を封じ込めるための手を打とうとした。しかしこれに左派である野党が猛烈に反対した。国民の人…

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106.1 第百三話 前半

104.1.mp3 「片倉邸から出てきた周と京子は、相馬の家に入りました。」 「そうか。」 「片倉邸の警備はどうしますか。」 「カラの家の警備は必要ないだろう。」 「では撤収させます。」 警察庁の一室にいた松永は耳に装着していたイヤホンを一旦外し、小指で中をカリカリと掻いた。 「理事官。」 一緒に部屋に居た部下が彼の名前を呼んだ。 「どうした。」 「現場が動き始めたようです。」 「おう。」 松永は再度イヤホンを装着した。 「熨子山事件に関する記事がアップされはじめ、それがSNSによって石川県を中心に拡散が始まっています。」 「熨子山事件だと?」 「ええ。ほんまごとというブログです。」 「ほんまごと…。北陸新聞テレビの黒田か…。片倉の奴賭けに出たな。」 「これはどういうことなんですか。」 「詮索無用。俺は現場から報告を受けている。」 「ですがこれ…あの事件の核心をついたネタばっかりです。藤堂、いや鍋島の生存と潜伏情報まで開示しています。」 「いいんだ。市民への注意喚起だ。」 「しかし拡散がひとたび始まると、いずれそれは全国的に広がりかねません。」 「心配はない。そのあたりは厳選されたインルフエンサーに一次拡散を仕掛けることになっている。石川県中心に影響力をもつ連中にな。」 「そうですか…。」 「それにな。世の中の大多数は熨子山事件のことなんて興味ない。そんな事件あったっけ?ってもんだ。いくら拡散希望と銘打って極めて真実に近い情報が書かれたリンクを貼…

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105.2 第百二話 後半

103.2.mp3 21時になろうとするドットメディカルの一室にはまだ明かりが灯っていた。 パソコンと向き合う今川は時折送られてくるユニコードを変換し、それに返信をする作業をしていた。 Это тот факт, что Юрий знает о местонахождении Набэсима. ユーリは鍋島の居場所を把握しているということだな。 возможно おそらくは。 Является ли капитан знает подробности? キャプテンはその詳細を把握しているのか Нет いいえ 汗を拭った今川は大きく息を吐いて天を仰いだ。 ー執行部はどうすると言うんだ…。このまま放っておけば悠里は期限までに何らかの方法で鍋島を片付ける。それが執行部にとっては面白く無いんじゃなかったのか? 今川はパソコンの画面を見た。 ーさっきから執行部は悠里の周辺状況を聞くだけで、鍋島排除の停止命令を発してこない。執行部からストップがかかればいつでも悠里にその命令を言い渡せるのに…いったい何を企んでる…。 再びメールが届いた。 План после даты Набэсима исключения? 鍋島排除の期日後の計画は? Запустите пример массива 例のアレを実行します "Пример"? 例の? Ни в коем случае не делать этого тоже не зна…

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105.1 第百二話 前半

103.1.mp3 「え…い・岩崎さん?」 横に座っていた京子は相馬の第一声に驚きを隠せない様子だ。 「あ…おじゃましました。」 相馬は電話を切ろうとした。 「待って。」 「え?」 「…ありがとう。」 「え…。」 「相馬くんが言ったとおり、自分だけを見てくれる人に私の思ってること話した。」 「あ…おう…。」 京子が相馬の顔を覗き込む。彼は彼女に頷いてみせた。 「けど…。」 「けど?」 「彼…私の隣で戸惑ってる。」 「…え…ちょ…待って…。」 どういうことだ。自分の思いを告げたならば後はその返事を聞くだけだ。まさかこの展開は土壇場で長谷部が岩崎を受け入れることが出来ないとの判断を下したためのものとでも言うのか。相馬は言葉に詰まった。 「それだけ。ついでだから相馬くんに報告しとこうと思って。長谷部君に替わるわね。」 自分はよりによって岩崎の告白のタイミングで長谷部に電話をかけてしまったというのか。相馬は気まずくなった。しかしそれにしても何故、その最悪なタイミングでかけた電話に長谷部ではなく岩崎が出たのだろうか。 「おう…相馬…。」 「わりい長谷部。俺電話切るわ。」 「待てま。」 「え?」 「ありがとう。」 わけがわからない。岩崎も長谷部もなぜ自分に礼を言うのか。 「よく分からんけど、お前、俺のこと彼女に推してくれとってんな。」 「…あ…。」 「本当にありがとう。おかげで俺は彼女の気持ちとかいろいろ聞くことができた。」 「おう…。」 「俺は彼…

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104.2 第百一話 後半

102.2.mp3 ーツヴァイスタンの下間宅ー 「はぁはぁはぁはぁ…。」 息を切らす下間悠里の目の前には、家政婦とその子供の無残な遺体が転がっていた。 「に…兄さん…。」 悠里の背中に麗は声をかけた。 「来るな…はぁはぁ…。」 「兄さん…。」 「うるさい!!」 持っていた鍬を悠里は力なく床に落とした。 麗は悠里がいる部屋の様子を見た。あたり一面に血しぶきが飛び散っている。悠里にも大量の返り血のようなものが付着していた。 「お…お母さん…。」 「黙れ!!」 麗の身体が震え出していた。 その時である。家の扉が開かれた。振り返るとそこに男がひとり立っていた。 「イ…イマガワ…さん?」 男は麗の方をちらりと見て、そのまま立ち尽くす悠里の側に立った。 「良くやった。」 未だ息を切らす悠里の肩を叩いて彼はこう言った。 「この家政婦は党の規律に違反して幹部に賄賂を渡していた。それを自らの手で処分したお前は素晴らしい。」 「はぁはぁはぁ…。」 「これでお前は党のエリートコースを歩める。」 「え…?」 「特別学校だよ。おめでとう。」 「どういうことですか…。」 今川は横たわる遺体を覗き込んだ。そして手袋をはめ家政婦の胸元を調べた。 「ほうほう…几帳面にメモしてあるな。」 彼の手には一冊の手帳のようなものがあった。 「こっちから渡した金はほぼ全額幹部のところに行ってるか…。ミカイル、ヴィチャスラフ、ヤロポロフね…。これは物証になるな。」 「あの…。」 「…

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104.1 第百一話 前半

102.1.mp3 「私の名前は下間麗。」 「は?しもつま?」 麗は頷く。 「下間って…本当にあの原子力工学の下間の…?」 「そうよ。そして私は日本人じゃない。私の国籍はツヴァイスタンなの。」 「ツヴァイスタン?ツヴァイスタンってあの…ツヴァイスタン?」 「そう。ツヴァイスタン人。日本とは国交を持っていない中央アジアの貧しい国よ。私はあそこで下間芳夫の娘として生まれた。」 長谷部の携帯が止まった。 「私の父さんも母さんもれっきとした日本人なんだけど、ある時期からツヴァイスタンに行っちゃって。私はそこで生まれた感じ。」 「ごめん。全く意味が分からんげんけど。」 「ごめんね。」 長谷部は自分の目の前で起こっている出来事が何なのかさっぱりわからない様子である。 「長くなるけど聞いてもらえる?」 「…もちろん。」 はっきりしない表情で彼は彼女を見た。 「1970年代って長谷部君も知ってるように、ほら、学生運動とかって盛んだったじゃない。」 「ああ70年安保とか聞いたことある。」 「うん。私のお父さんとお母さんはその時学生運動の中心にいて、そこで知り合って結婚したの。」 「学生結婚?」 「うん。で、その運動の精神的主柱になるのが反日・共産主義思想でね。私の両親はそれにどっぷり浸かった。長谷部君も知ってる通り安保闘争は結局失敗した。でも私の両親はなんとか革命を成し遂げたいって、当時地上の楽園って言われたツヴァイスタンに渡ったわけ。あそこはほら共産国でしょ。そこで再起…

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103 第百話

101.mp3 相馬と京子はリビングのソファに掛け身体を寄せ合っていた。 「お母さん何も言ってこんね…。」 「いいげん。このままが良い。」 相馬は京子の頭を撫でた。 その時である、京子の携帯の画面が光った。 「あ、携帯光った。」 「え?」 京子はそれを手にしてすぐにそれをテーブルに戻した。 「何や?」 「どうでもいいやつ。」 「どうでもいいやつ?」 「うん。SNSの通知。」 「え?いいが?」 「だって付き合いだけで入れとるもん。しばらくアプリ起動しとらんかったら、友達がこんなこと書いとるからウォール覗けって言ってくるげん。大きなお世話やわ。」 「無視け。」 「無視じゃないよ。スルー。」 「同じことやと思うけど。」 相馬のこの言葉を受けて京子は渋々再び携帯を手にとった。 「意外とおもろいこと書いとるかもしれんよ。」 「どいね、SNS嫌いやって言ってアプリとか一切入れとらんくせに。」 「あ…ごめん。」 「どうせご飯の写真とか、どっかに行ったとか、意識高いコメントとか、シェアさせていただきますとかってリア充自慢ポストばっかやって。」 「リア充ね…。」 「あ、リア充じゃなくて拡散希望やった。」 「拡散希望ね。よく見るね。記事のタイトル部分だけ書いてURL貼り付けとるやつやろ。そんなんに限って大したネタじゃないんや。」 「…。」 相馬に寄りかかっていた京子はソファに座り直し、無言で携帯の画面をじっと見つめた。異変に気がついた相馬は彼女に声をかけた。 …

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102.1 【お便り紹介】

お便り いぬおとこ三郎さん.mp3 今回はいぬおとこ三郎さんからのお便りを紹介します。 エピソードのアーカイブについて/SeesaaとWEBサイト/短編物語 闇と鮒では皆さまのお便りを募集しています。 お気軽にウェブサイトからご投稿下さい。 よろしくお願いします。

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102 第九十九話

100.mp3 「なんだ…何やってんだ…。」 車を運転しながらスマートフォンに表示される鍋島の位置情報をみた悠里は呟いた。鍋島のGPS情報は金沢市内のとある住宅の極めて狭い範囲を移動していることを表示していた。 「こんな狭い範囲うろついていたら、直ぐに顔が割れて警察にパクられるぞ。」 彼は赤色で点滅するそれを拡大表示させた。よく見るとその表示は隣り合う家と家との間を通り抜けるような動きをしている。 「おかしい…。」 一旦車を路肩に停車させそれを手にとった時のことである。 路肩の植木の中から一匹の猫が現れこちらを見た。 「猫…。」 ぷいっと視線をそらして、猫は再び物陰に隠れてしまった。 「まさか…。」 そう呟いた瞬間、手にしていたスマートフォンに着信の表示が現れた。見覚えのない者からの電話である。 「誰だ…。」 通話の表示をタップして、悠里はゆっくりとそれを耳に当てた。 「はい。」 「仁川さんの携帯でよろしかったでしょうか。」 「どちらさまですか。」 「鍋島です。」 「え…。」 「仁川さんでよろしかったですか。」 「…。」 「返事は。」 「…なんだ。」 「くくく...お前さんがねぇ。」 「…何のことだ。」 「惚けんな。親父に言われて俺のこと消そうとしてるんだろ。」 「…。」 「え?悠里。」 「気安く下の名前で呼ぶな。」 「けっ。」 「…鍋島…お前携帯をどこに捨てた。」 「あ?」 「機密情報が詰まった大切な携帯をどこに捨てた。」 「…

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101.2 第九十八話 後半

99.2.mp3 「はい…ええ…そうですか…分かりました…。」 電話を終えた古田は首を回して凝った肩をほぐした。 「どちらからですか。」 「いや、ちょっと…。」 「まさか課長からですか。」 「いや。」 「いいじゃないですか警部。」 パソコンを睨んでいた冨樫が神谷の詮索を止めた。 「ねぇ古田さん。」 古田はニヤリと笑って冨樫に応えた。 「あ…冨樫さん。」 「マサでいいですよ。」 「あぁマサさん。ちょっと検索して欲しいんやけど。」 「なんでしょうか。」 「平仮名で『ほんまごと』っちゅうサイトねんけど。」 「『ほんまごと』?ですか?」 「おう。」 素早く彼はそのサイトを画面に表示させた。 「え…なんですかこれ…。」 「うん?」 「これ…熨子山事件のこと書いてあるブログじゃないですか。」 「おう。マサさんはこれ知らんかったんけ。」 「ええ…ちょっと待って下さいよ…。これ…そこいらの週刊誌とかよりもよっぽど確度が高いネタ転がっとるじゃないですか。」 「どこらへんが?」 「ほら…山県久美子のレイプ事件の件とか、警察内部の権力闘争とか、ツヴァイスタンの影とか…。」 冨樫の側に寄った神谷もその画面を見つめた。 「ほんとうだ…。」 「これプロでしょ。」 「多分。」 「こんだけ深い内容ってことは、ネタ元は当時の関係者ですね。」 「そうやろうな。」 「ちゃんと取材して記事にしとる。」 「多少の間違いはあるけどな。」 古田は冨樫にサイトをリロードする…

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101.1 第九十八話 前半

99.1.mp3 「片倉さん。スタンバイOKです。」 部屋の鍵をかけた黒田はこう言ってパソコンの前に座った。 「よし。まずはお前に俺の身分を明かす。」 「え?」 「俺は公安や。商社マンじゃない。」 「え…公安…。」 タイピングする黒田の手が止まった。片倉の背景に何か大きなものが動いている。彼がそう感じたのは当たっていたようだ。 「悪かったな今まで嘘ついとって。」 「嘘...っていうか…。」 突然の告白を受けた黒田が衝撃を受けなかったといえば、それもまた嘘となる。しかしこの時の彼は衝撃よりもむしろ覚悟を感じた。片倉は自分の本当の身分を黒田に明かすことで、これから自分がしゃべるであろうことに信憑性を持たせようとしているのだ。 「本当のことですか?片倉さん。」 「すまんかった。」 言い訳めいたことは言わない。それが更に信憑性を高め、時間の貴重さを訴えかける。ここであまり詮索はしないほうが良い。黒田は謝る必要はないと返事をしそのままタイピングを続けた。 「まず藤堂について話す。」 「はい。」 「藤堂豪は鍋島惇だ。」 「え…。」 「鍋島惇は死んどらん。藤堂の顔写真はお前、岡田から見せてもらったな。」 「はい。」 「顔は別人やけどアレは同一人物。鍋島の整形の成れの果てがあの顔やと思ってくれ。」 「整形手術…ですか…。」 「そうや。あっちこっちで細かく整形して今の顔形になっとる。一見別人やけどあの写真の男は紛れも無く鍋島や。」 黒田はもたらされる衝撃的な事実に、…

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100 第九十七話

98.mp3 金沢北署の正面入口を駆け足で通過して階段を登った先に「金沢銀行殺人事件捜査本部」が設置されている大会議室があった。彼はその扉を勢い良く開いた。 「あっ!!課長!!」 本部に詰めている所轄捜査員たちが一斉に岡田の方を見た。 「どうなってんだ。」 「…どうもこうも。こっちが聞きたいくらいですよ。課長っていきなり姿消すんですから。」 「あ?お前ら署長から何も聞いとらんがか。」 「え?署長ですか?」 「おう。」 岡田は部屋の様子を見回した。捜査本部長である若林が座るはずの席は空席である。 「おい。署長は。」 「え…。」 「署長はどこやって言っとるんや。」 「あの…。」 捜査員は口ごもった。 岡田は若林の席のそばの、県警本部の捜査一課の捜査員の前に立った。彼は苦虫を噛み潰したような表情である。 「若林署長はいずこに。」 本部の人間は頭をふる。 「はぁ!?」 「だら。声でけぇって…。何か分からんけどお前がおらんくなってから、ここよう空けとるんや。」 「え?それって…。」 「指揮官不在が頻発。現場は混乱しとる。」 確かに周囲には捜査員の殆どが集結し、机の上に資料を並べて何かを討議している。普通ならその殆どが出払って事件現場で聞きこみに奔走しているはずなのにである。 「ほんなんあんたら本部の方でうまいこと指揮すればいいじゃないですか。ってかあんたらはそのためにおるんでしょ。」 「何言っとれんて。人間の配置は変わっとらんげんぞ。あくまでもお前が主任捜…

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99 第九十六話

97.mp3 「一色さんがお父さんの上司やったってわかったんは、熨子山事件が起こってからの話。あの事件が起こってあの人が一色さんに関わるなって言っとったんは当たっとったんやってわかった。」 「…そうやったんや。」 「周、あの事件起こった時、一色さんは特に関係ないって無視したやろ。」 「おう。」 「んで冷たいとか皆に言われたがいね。」 「うん。京子ちゃんにも言われた。」 「うん…。あの時はごめん…。今になって何なんやけど。この前西田先生が言っとったみたいに、周のあの時の判断は正しかったと思うの。」 「じゃあなんで、京子ちゃんおれの事責めたん。」 「何か…正直、一色さんってそんなに悪いことをする人には思えんかってん。ただそんだけねん。」 「え?」 「稽古つけてもらって、周と一緒にあの人の話聞いたがいね。あの時のあの人の話し方とか雰囲気とか思い出しても、そんなことするような人にはどうしても思えんかってん。」 「でも、京子ちゃんはお父さんの忠告は正しかったって思ってんろ。」 「うん。でもお父さんが言っとった関わるなってことは、何かそういう意味で関わるなって言っとったんじゃないかって思ってん。」 「は?」 「ほら、もともとお父さんはどうしても関わるって言うんなら、全部引き受けろっていった訳やがいね。」 「あ、おう。」 「絶対に私に危険が及ぶっていうんなら、何が何でも一色さんと私を引き離すはず。けどあの人はそこまでせんかった。」 「…そうやね。」 「結局あの事件って一…

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98.1 【お便り紹介】

お便り ハチノホヤさん3.mp3 今回もハチノホヤさんからのお便りを紹介します。 4月と6月に頂いたお便りをまとめて紹介します。 闇と鮒では皆さまのお便りを募集しています。 お気軽にウェブサイトからご投稿下さい。 よろしくお願いします。

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98 第九十五話

96.mp3 正確に言えばものの3分程度の間だ。しかし女の涙というものを経験したことがない彼にとっては、京子の顔が自分の胸の内にあるという時間は途方も無く長いものに感じられた。 「お父さんに近づけると思った...。」 相馬の胸に顔を埋めたまま、彼女は消え入るような声を発した。 「え?」 「お父さんが何を考えとるんか、少しでも分かればいいと思って引き受けてん...。」 「え?何のことけ?」 「一色さんの手紙の件。」 ごめんと言って彼女は相馬の手を解き、テーブルに置かれていたティッシュを何枚か引き抜いて、それで自分の目の辺りを拭った。 ため息を付き、天井を見つめて気持ちを落ち着かせたのか、彼女は再び相馬と向い合って座った。 「…どういうことけ。」 「ウチ、お父さんもお母さんもダメねん。」 「え…。」 「お母さん、正直お父さんに愛想つかしとれん。」 なるほどそういうことかと京子の母がこの時間に家にいないことが妙に腑に落ちた。反面、なんとも気まずい気持ちが彼の心を覆う。 「だって嘘ついとるげんもん…。」 「嘘?」 「うん。」 「京子ちゃんのお父さんが?」 京子は頷いた。 「あの人、警察辞めとらんげんわ。」 「え...なんでそんなこと言えらん…。」 「ほんなもん分かるわいね。いくら商社勤めって言ったって、こんなに家空けて全国各地で営業なんかせんわいね。」 「でも行商みたいに全国行脚する商売だってあるがいね。」 「あの人は警察のOBがおる会社に行ってんよ。警…

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97 第九十四話

95.mp3 「まだ帰ってこんがか。」 山県邸に張り付いたままの岡田は前方を確認し、車内でコンビニのおにぎりをかじった。 「うん?」 彼の車の前に一台のワンボックスカーが止まった。そのため岡田の視界は塞がれた。 「まずい。」 岡田はエンジンを掛け、場所を移動しようとした。 その時である。ガッシリとした体つきのスーツ姿の男が二人、ワンボックスカーから降りて岡田の側に駆け寄ってきた。 「何や…。」 ひとりが岡田の車の後ろに立ち、彼の車は瞬く間にワンボックスカーと人間によって前後を抑えられ、身動きがとれない状況になったのである。 「プロやな…。」 もう一人の男が運転席の窓を軽くノックした。よく見ると彼の左耳にイヤホンが装着されている。 岡田はゆっくりと窓を開けた。 「なんの用や。」 「交代です。」 「あん?」 「すぐに所轄に戻ってください。」 「はぁ?お前らなんねん。どこのモンや。」 「警視庁です。」 「警視庁?」 岡田は男の発言にタダ事ではない雰囲気を感じた。 「山県久美子の警護は我々でやります。つべこべ言わずにあなたはさっさと北署に戻って、捜査一課課長の職責を果たして下さい。」 「なにぃや。俺の身分は今宙ぶらりんなんや。」 「大丈夫です。」 「何が。」 「いいからさっさと戻れ。」 凄みのある声で岡田は一喝された。 「断る。俺はいまは警察官じゃない。」 ちっと舌打ちした男はしぶしぶポケットからあるものを取り出して岡田に見せた。 「あ…。」 …

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96 第九十三話

94.mp3 「おそらく今川が想定する執行部の上層部は、そのユニコードっていうシロモンを簡単に扱うことができる人間ねんろ。OTP(ワンタイムパッド)なんかでチマチマ変換作業するほど余裕が無い。今川はその相手に至急連絡をとって、確認をしたかったんや。」 古田は部屋の畳にどっかと腰を下ろし煙草を咥えた。 「まぁその理由を詮索するほど、今はこちらも余裕が無いんですわ。」 「と言うと?」 「やわら反撃の狼煙が上がる。」 「え?」 「警部。こっからは予定もクソもありませんよ。時間との闘いや。」 そう言うと古田は時計を見た。 「んで決断する場面が圧倒的に多くなる。さっきみたいな考え方は捨てたほうがいいですよ。」 古田は先程の冨樫と神谷のやり取りをすでに知っていたようだ。 「ねぇ冨樫さん。」 冨樫はにやりと笑ってそれに応えた。それを受けて神谷は覚悟を決めたような表情で古田を見た。 「さあて。伸るか反るかの大博打の始まりや。」 「古田さん。何やるんですか。」 冨樫が古田に尋ねた。 「冨樫さん。あんたIT関係のことよう分かっとるやろ。」 「ええ、まぁ。」 「あんたなら直ぐに分かるかもしれん。」 「なんでしょう。」 「相手方の情報処理能力をダウンさせる。」 「ダウン?」 「ああ。ほら昨日石電のWebサーバがダウンしたやろ。」 「ええ。Dos攻撃と思われます。」 「それとおんなじことをアナログであいつらにぶつける。」 「…ほう。」 「んで、そこであいつらを撹乱、離…

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95 第九十二話

93.mp3 県警本部の通用口を経由した古田はエレベータを降りた。 カタカナのロの字になっている階の角をひとつ曲がると、そこには警備部長室があった。在室のランプが灯っている。古田は扉をノックした。 「失礼いたします。」 大きな机の向こう側に土岐が何やら険しい表情で着席していた。土岐に向かって左側の壁には日章旗が掲げられている。反対側の壁に掛けられた時計の時刻は19時を指し示していた。 「俺は忙しい。手短に済ませろ。」 「片倉さんからお聞きかと存じますが、彼は捜査をワシに一任しました。」 「聞いている。しかしチヨダマターの直接的な管理者は俺じゃない。察庁の理事官だ。お前も警察のOBならそれくらい分かっているだろう。」 土岐は呆れ顔を見せた。 「ええ。そうです。んでワシはいまはただの民間人です。」 「いち協力者にしか過ぎない身分の人間に、何であいつは捜査を一任したんだ。」 「わかりません。ですがワシとしましても一任された以上なんとかせんといけません。」 土岐はため息をついた。 「ったく。察庁は何やってんだ。現場のゴタゴタをなんで俺が調整しないといけないんだ。」 「すいません。ワシは察庁の連絡窓口は聞かされていないもんで。」 「その辺りを調整してから俺を通せと言うんだ。順序が違う。」 「部長の仰ることは至極もっともです。先程言ったようにワシはただの民間人。いくら片倉さんから一任されたと言っても、ワシが現場捜査員の指揮を執る訳にはいきません。ワシができるのは今と変わらず…

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94 第九十一話

92.mp3 「貴様には黙っていたが、実はな…俺は嫁さんを寝取られてるんだ…。」 「え…。」 「所轄の公安課の課長だった頃だ…俺も貴様のように家を開けっ放しだった。あの頃の俺はまだ若かった。確か40前半の事だったと思う。ひとつのヤマが解決し、久しぶりに家に帰ったんだよ。そうしたら玄関で異変に気がついた。」 「まさか…。」 「ああ。見覚えのない男のものと思われる靴がそこにあった。それを見た瞬間俺は何が家の中で起こっているか悟った。」 「やめて下さい。聞きたくありません。」 この片倉の発言は拒絶ではなく要請であった。しかし朝倉は言葉を続けた。 「ひとが命を懸けて日々危険な仕事をしているというのに、あいつは男にうつつを抜かしている。子供がいるのにだ。俺にはふつふつと怒りがこみ上げていた。殺意さえ芽生えていた。」 「殺意…。」 「だが…。」 「だが。」 「聞こえてくるんだよ、情事の声が。俺が一歩足を進めるたびにそれが近くなる。そこで俺は気がついた。」 「…。」 「俺がこの結果を作り出している。」 「部長が…。」 「一気に無力感が俺を包み込む。気が付くと俺は家から程遠い居酒屋で酒を浴びていた。」 片倉は深い溜息をついた。 「その時は家に帰る事無く俺は居酒屋で一晩明かした。この段階においても俺の帰りを心配する嫁の声はない。あたりまえだ。家にいないのが普通だったからな。このままじゃ家庭は崩壊する。そう思ってそれから俺は嫁さんと話し合いの場を頻繁に設けた。それが功を奏したか…

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93 第九十話

91.mp3 ドットメディカルの自室で携帯電話を操作する今川惟幾の姿があった。彼はデスクトップパソコンのメーラーの迷惑メールの中の一件を開いた。タイトルも本文も文字化けを起こしたどうにもならないメールである。今川はそのどうにもならない文章を携帯電話を覗きながら、ときおり何かをメモ帳に書き記しながら読み込んだ。 「ゴ ク ヒ…。」 咳払いをした今川は姿勢を正した。 「悠 里 ノ 動 キ 報 告 ナ シ 。 至 急 報 告 サ レ タ シ 。」 「え…。」 彼の額から滝のような汗が流れだした。 ー何だ…。執行部は鍋島排除の件をキャプテンから聞かされていないのか? ハンカチで汗を拭うも、今度は首筋にそれが湧き上がってくるため彼はその行為を止め、ペンを手にとった。 「Теперь, чтобы быть исключен из Набэсима по инструкции от капитана. Юрий переехал в изгнание. (キャプテンからの指示で鍋島を除名する事になりました。除名に悠里が動いています。)」 こうメモ帳にペンを走らせた今川は、再び携帯電話を覗き込んだ。そしてその文章を画面に表示されている乱数表を元に変換し、それをキーボードで打ち込んだ。ディスプレイに表示される一件文字化けした文章と携帯電話の表示を何度も照らしあわせて、彼は送信のボタンを押下した。そしてすぐさま携帯に表示されていたデータを消去した。 「ふーっ…。」 ー一体どういうことだ…

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92 第八十九話

90.mp3 「村上…。ようやく鍋島と相見えることができそうや。」 相馬卓と尚美の2人を無事、市内のホテルに匿うことができた古田は車を運転しながら呟いた。 ーいままで自分の協力者やと思っとった人間がこちら側の協力者やった。おそらく鍋島は怒髪天を突く思いや。これで奴の感情の矛先は久美子から相馬卓に移るはず。相馬に何らかの制裁を与えるなら手っ取り早いのは、あいつの自宅に殴りこみをかけること。 ハンドルを切って古田は交差点を左折した。 ーしかし先の先を行くのがあいつの攻め方。まんまとこっちの偽カメラにハマったが、賢いあいつのことや、体制の立て直しを図るはずや。とすればこちらの目論見を察知して別の方向に動く可能性も捨てきれん。もしもあいつがワシらのおびき寄せ作戦を察知したとしたら、下間らと連携してあっちのほうで何かの動きを見せるかもしれん。 「だめや…考えれば考えるほど鍋島の行動が読めんくなる…。」 そういいながらも古田の車は相馬の自宅に向かっていた。 携帯が鳴った。イヤホン付属のリモコンを押下し彼はそれに出た。 「はい古田。」 「おうトシさん。」 「どうした。」 「今さっきドットスタッフに潜り込ませとるエスから情報が入った。」 「なんや。」 「周と京子の件、うまく行きそうや。」 「なに?」 「仁川は、いや悠里は妹の麗にコミュを脱会するよう促した。」 「それは本当のことか。」 「ああ。エスがあいつのオフィスに仕込んだやつにしっかり録音されとった。明日のコミュで麗を脱…

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91 第八十八話

89.mp3 「見たぞ。なんだあの顔は。」 「そうでしょう。随分参っているようです。」 「そうみたいだな。」 「潮時じゃないですか。」 「…そうだな。こちらから動いてみるとするか。」 新幹線のホームに立って電話をする朝倉の姿があった。 「随分と騒がしい場所におられるんですね。」 「ああ。長官のお出迎えだ。」 「長官といえば例の件は。」 「順調だ。明日、あのお方が直接会ってくださることになった。」 「では明日、正式にこちらの陣営に加わるということで。」 「そう思っておいていい。」 「奴らも一色の親友である直江がこちら側の人間だってことは知る良しもないでしょうね。」 「大変だったんだぞ。今川。なにせ三年がかりだったんだ。」 「三年でここまでの浸透工作ができるのは、キャプテン以外にありませんよ。公安調査庁に行ってから間もなく次期長官と目される人間をオルグし、順当にその人物を長官にしたんですから。」 「これも波多野先生のお力添えによるところが大きい。俺ひとりの力では何も成し得なかった。」 「キャプテン。謙遜しなくてもいいですよ。」 朝倉は不敵な笑みを浮かべた。 「そんなことより今川。お前、調査されつくされてるぞ。」 「え?」 「俺の協力者がお前のことを調べあげてきた。」 「何者ですか。」 「残念ながら協力者の情報は誰にも言えない事になっているからな。」 「…。」 「俺が何を言いたいのか分かるか。」 「…。」 「先日の能登イチの件といい、県警の情報関…

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90 第八十七話

88.mp3 バスから降りた相馬周は携帯の時計を見た。時刻は16時半である。5限目の講義が急遽休講となったため、この時間での帰宅となったのである。 「やっぱやめよう。」 こう言って彼は携帯電話をしまった。 ー昨日の今日で、長谷部と岩崎さんにあれからどうや?ってメールとか送るんは、やっぱなんかわざとらしいわ。2人くっつけるんにこっちのほうががっぱになって、何か変に勘ぐられたら不味いしな…。 ポケットに手を突っ込んで地面に目を落としながら、彼はトボトボと歩いた。 ーこんなんで良いんかな…。 ふと相馬の脳裏に一色の姿が浮かんだ。防具姿の一色はこちらに竹刀の切っ先を向け、中段に構えている。面を装着しているため、彼の表情の詳細は窺い知れない。相馬がふと気を抜いた瞬間、一色の竹刀の剣先は巨大な面となって彼に襲いかかった。僅か数センチしか無い剣先がとてつもなく大きな壁のように。 「メーン!!」 相馬はなすすべなく面を一本取られた。 「どうした。何ぼーっとしている。」 「あ…すいません…。」 「なんで謝るんだ。」 「あ…。」 「自分に非がないのに反射的に謝る言葉を発するのは良くないよ。」 「…はい。」 「いま君は気を抜いた。そこを俺に突かれた。真剣勝負に気を抜いてしまったって事を反省して、改善すればいいだけだ。」 「ちょっと休むか。」 「はい。」 一色の言葉に相馬は休憩の号令をかけた。 「やめーっ。」 部員たちは皆、動きを止めてお互いが構え、蹲踞、納刀の一連の動作をし…

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89 第八十六話

87.mp3 「鍋島現認!?」 冨樫と神谷が詰める部屋。その六畳間で横になっていた片倉は飛び起きた。2人はこの片倉の言葉を受けて表情を強張らせた。片倉は通話内容を2人と共有するためにそれをスピーカモードに切り替えた。 「おう。ついさっき岡田から連絡が入った。藤堂らしき男が山県の家にふらりと現れたらしい。」 「で。」 「家の近くで携帯で山県んちに電話して、中に誰がおるか探ってそのまま姿を消した。」 「どんな格好しとるんや。」 「全身黒尽くめ。頭にはニット帽。んで丸サングラス。」 「丸サングラス…。」 「サングラスで顔の様子がよく判別できんかったけど、口元が金沢銀行にあった藤堂の写真と似とったらしい。」 「丸サングラスは鍋島のシンボル的なアイテムや。」 パソコンを操作した冨樫はディスプレイに熨子山事件当時使用された鍋島の顔写真を表示させた。その写真も丸のサングラスをかけている。 「ああ。」 「奴はいまどこにおる。」 「わからん。」 「は!?」 「ほやけどあいつはあれに気がついたってことや。」 「久美子の店のカメラか。」 「おう。あそこに設置されたカメラは過去の映像を垂れ流しするだけのもんやってことに。」 「ちゅうことはあれか。相馬卓がこっちのエスやってことも。」 「おうさっきバレたと思われる。」 「よし。土岐部長に言ってキンパイをかける。」 「まて。」 「あ?」 「県警は動かすな。」 「なんでや。」 「今は昨日の原発事件で人員が割かれとる。」 …

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88 第八十五話

86.mp3 金沢駅近くのビジネスホテルにチェックインした鍋島はシャワーを浴びていた。 備え付けのボディソープを手で泡立て、彼は全身にそれを塗りたぐった。そしてそのまま両手を頭に持って行き、髪の毛ひとつない頭にもそれを塗って手早く流水で流した。 ものの5分程度で全身を浄めおわった彼はバスタオルで全身を拭きあげ、鏡に写る自分の姿を見た。 「相変わらず汚ねぇ身体だな。」 何で負ったものかは分からないが、彼の上半身のそこかしこに大小無数の傷跡があった。鍋島はその中でも腕にある傷跡に目を落とし、それをゆっくりと指でなぞった。 「久美子…。感じるよ、お前を…。」 そう言うと彼は恍惚とした表情になった。 彼は覗きこむように鏡に映る自分の顔を見た。 「あのころの俺とは似ても似つかぬ顔だ。そして髪の毛もない。いまの俺を見てあいつは俺を思い出すかな。」 鍋島は耳から顎にかけてを指でなぞる。 「俺には顔の感覚さえないんだよ。俺でさえこの鏡に映る人間が誰だか分からない時がある。」 タブレット端末を手にした彼はそこに映る久美子の姿を見つめた。 「でも…あいつのカラダは覚えてるか。」 そう言って鍋島は不敵な笑みを浮かべた。 「頼むよ…俺の傷を癒やしてくれ。久美子。」 映像の久美子は店員と何かの会話をしてた。時折腕時計に目を落とし、なにやら時間を気にしているようだ。 タブレットが示す時刻は14時である。 「なんだ。何やってんだ。」 画面の中の久美子は両手を合わせて別の店員に何かを頼ん…

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87 第八十四話

85.mp3 能登イチでの爆発事故がコンドウサトミの生存を県警内部に知らしめた。 3年前の熨子山連続殺人事件で死んだはずの人間が生きている。しかもその人間は原子力発電所にいとも簡単に侵入し、爆発物を設置。まんまと逃げおおせたのである。 チヨダ直轄案件を追う片倉ら一部の公安関係者は昨日の段階でおおよその概要を把握していたが、県警の一般捜査員は本日7月17日にこの概要を知ることとなった。県警はまず爆発事件の捜査に動き出した。同時にコンドウサトミの身元を再度洗うこととし、情報管理調査本部を設置した。 情報管理調査本部長に任命された警備部部長の土岐は提出された資料に黙って目を通していた。 熨子山連続殺人事件を捜査したのは刑事部。この刑事部の捜査に何らかの不手際があった可能性がある。身内の事を身内で調査することは真実の隠蔽にもなりかねない。よってこれを検証するには第三者の目をもってするのが適当だと判断した県警本部長による人事であった。土岐の下に警務部情報管理課、警務部監察課、そして様々な部署の一部のスタッフが置かれた。 「部長から見て右側が、ワシが個人的に保存しとった鍋島惇の指紋。んで左側はデータベースの七尾のガイシャの指紋。」 密室で土岐と向い合って座る十河はこう言った。 「確かにパッと見た感じだと、朝倉本部長の言っていることも分かる。しかしあんたが言ってる通り右人差し指をみればその違いが分かる。」 「でしょう。鑑識から上がってきた情報っちゅうことでめくら判押すみたいな感じやとスルー…

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86 第八十三話

84.mp3 「自社のウェブサイトがダウンする中の爆発事故。原子力発電所を運転する電力会社の経営責任が問われることとなりそうです。」 アナウンサーがこう言ったところで朝倉はテレビの電源を切った。 「醜態。」 「ええ。」 「察庁は何をやっている。」 「さあ。」 「松永は無能か。」 「そうかもしれません。」 「直江、少しはフォローしたらどうだ。」 「いえ。フォローのしようがありません。」 「お前も酷い男だな。」 朝倉は口元を緩めた。それに反して直江は表情ひとつ変えない。 「ですが、この一件で警察内で明るみになった事があります。」 この言葉に朝倉は15秒ほど沈黙し、ゆっくりと口を開いた。 「コンドウサトミこと鍋島惇の生存か。」 「はい。奴の生存が察庁内で明るみになったということで、熨子山事件に関わった人間の聴取が始まることでしょう。」 「それはお前の方でうまい具合に調整をつけておけ。」 「どのように?」 「知らぬ存ぜぬでいい。」 「と言いますと?」 「鍋島は七尾で村上よって殺害されたと判断するのが当時の状況から最も合理的な判断だった。それ以上でもそれ以下でもないと。」 「ですが、その物証が現時点において有力性を持ちえません。」 「それはどういうことだ。」 「現時点において七尾で殺害された人物の指紋が、当時のものとは全く違うものになっています。」 「なに?」 朝倉の声色が変わった。 「ご存じではありませんでしたか。」 「…初耳だな。」 「そうで…

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85 第八十二話

83.mp3 「花火はどうだった。鍋島。」 「あ?」 「お前が思ったような花火が見れたか。」 「…ああ。多分な。」 「はっ…多分…。こっちは思ったようなもんじゃなかったんだ。」 「そいつは残念だったな。」 電話の向こう側が沈黙した。 「ふっ…。」 「ここでもヘマしたか。」 「なに言ってんだ俺はあんたの指示通りにやった。結果これだ。今回の仕事で俺に非はない。」 「…代役を立てる。」 この言葉を受けて鍋島はため息をついた。 「…じゃあこれでおさらばだな。」 「…しかし…つくづく残念だ。」 「何言ってんだ。そっちから手切れだろ。言えた義理か。」 「不思議だな…。お前がこれからどう動くかなんて、俺は知りたくもないし知る必要もない。だが…。」 「なんだよ。」 「事ここに及んで、何故か躊躇う自分がいる。」 「はっ…なに言ってんだ。」 ハンドルを握る鍋島は失笑した。 「そんなセンチなこと言っても、あんたひとりの意志でどうこうなる話じゃないだろ。」 「…まあな。」 「まぁ…あんたにはさんざん世話になった。下間さん。あんただけには最後に礼を言わないとな。」 「礼?」 「ああ。人間苦境に立った時、結局は金なんだ。その金を融通してくれたのはどういう理由があれあんただ。」 「…。」 「友情とか、絆とか、連帯とか、繋がりとか人は口々にこう言う。その関係性は何者にも代えがたい尊いものだ、金に変えられるものじゃないとな。しかしどうだろう。人間は生まれながらにそんなに善良…

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84 第八十一話

82.mp3 注意深くも俊敏に階段を昇りきった三好の目の前には倉庫があった。最近建設されたものらしくガルバリウム鋼板の外壁は真新しく、懐中電灯で照らすと銀色のそれは輝きを帯びていた。 ーこの中に予備電源がある。 彼は倉庫の入り口に手をかけた。鍵がかかっている。シャッターの方に周るもそれも施錠されている。 ー倉庫の裏はどうや。 三好は倉庫の外壁に背を合わせながら、その裏手に回ろうとした。その時である。マチ付きの封筒が倉庫に立てかけられるように放置されていることに気がついた。 ーえ?携帯? 懐中電灯が照らす先には、黒光りする折りたたみ型の携帯電話があった。その携帯は封筒にガムテープのようなもので巻きつけられている。瞬間、彼の背筋に冷たいものが流れた。 ーそう言えば…携帯電話を起爆装置にするマルバクがあるとか聞いたことがある…。 三好は唾を飲み込んだ。 ーまさか…C4か。 三好とその封筒の距離は5メートルも離れていない。仮にいまこの時点でそれが爆発すると彼は無傷ではいられないのは明らかだ。 ーコンドウどうのって次元の話じゃない。こいつをなんとかせんと…。 気が付くと彼は携帯電話を手にしていた。 ー辰巳さんに報告や。 彼は携帯の画面を見た。 ーいや待て。確か携帯の着信を起爆装置にしてマルバクを遠隔操作する方法があるとか聞いたことがある。となると俺のここで携帯で指示を仰ぐのははやめたほうが良い…。 三好は自分の携帯電話の電源を切り、それをしまった。 ーもし…あれが着信…

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83 第八十話

81.mp3 「Dos攻撃?」 「はい。」 松永は即座にパソコンを開いてその用語の意味を調べた。 「DoS攻撃は、コンピューティングにおいてサーバなどのコンピュータやネットワークリソースがサービスを提供できない状態にする意図的な行為をいう。サービス妨害攻撃と訳される。サーバなどのコンピュータ機器にある脆弱性を攻略するものと、サーバの処理能力やネットワーク帯域に対して過剰な負荷をかけるものがある。 複数のコンピュータを攻撃側に巻き込む類型としてDDoS攻撃がある。」※出典:ウィキペディア「Dos攻撃」https://ja.wikipedia.org/wiki/DoS攻撃 「その可能性があると冨樫は言っとります。」 「片倉。悪いが俺はその手のIT関係の話は得手じゃない。」 「理事官。俺もです。」 「その俺が素人なりに思うんだが、いま攻撃を受けているのは一般ユーザーが石電の情報を見るための公式サイトだろう。」 「ええ。」 「つまり原発の運用などの根幹的な部分には影響はない。」 「確かにそうです。しかし折しも、先日のノトイチ運転差し止め運動の署名を受けて、石電はそれはそれとして原発の運転を止めるようなことは微塵にも思ってないと言ったばっかりです。会見での社長の言い方が気に食わないとか、目先の利益を追い求める連中だと、面白く思っていない連中は沢山居ます。そこでこの攻撃です。自社のウェブサイトのセキュリティ管理もままならん会社が、原発なんて代物をちゃんと管理できるのかっちゅう声が必ず…

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82 第七十九話

80.mp3 中継が終わり撤収の作業を手伝っている相馬は背後に人の気配を感じた。 「岩崎さん…。」 「…相馬くん。ちょっと話があるの。」 「え?でも俺バイト中やし…。」 2人のやり取りに気がついた安井は「いいよ10分だけなら」と言って気を利かせた。 2人は会館の外に出た。 「そう言えば相馬くん、テレビの報道カメラマンのアシスタントしてるんだったね。」 「あぁ。」 「まさかこんなところでばったり会うなんて思ってなかった。」 「あ…そう?」 「…今日はありがとう。」 「え?」 「何か…私、途中で頭が真っ白になってしまって…。」 「あぁよくある話やわ。テレビの生中継のインタビューなんか普通の人経験せんもん。そこで話すことがそのまま電波に乗って不特定多数の視聴者に伝わるんやから、緊張せんほうがおかしいわいね。岩崎さん、無難にこなした方やと思うよ。」 「そうかな…。」 「そうやって気にせんで。」 「相馬くん…私に助け舟出してくれたでしょ。」 「え?何のこと?」 「ほら、真っ白になってた時、相馬くん私の方見て頷いてくれた。」 「あ…そんなこと俺したっけかな…。」 「あの時、周りの空気がすごく重たく感じた。何、ここで詰まってんだ。さっさと求める言葉をよこせって。記者の人は笑顔だけど目は笑ってないし、急に押しつぶされそうになった。」 「言ったがいね。結果的に岩崎さんはそれを無難にこなした。結果オーライや。」 「あの時、私、瞬間的に思ったの。」 「何を?」 「こ…

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81 第七十八話

79.mp3 黒田は他の記者とは一線を画するように、ひとりカメラマン控室で夕方のニュースを見ていた。 トップニュースは芥川賞の話題。それに政治・経済のトピックが続いた。20分ほどキー局による全国ニュースが放送され、地方ニュースの枠に入った。目立った話題はない。どこそこでこんな取り組みがありましたとか、誰々が県庁を表敬訪問しましたといったことぐらいだ。 CMが入り、先程まで糞真面目な顔をしてニュース原稿を読んでいたアナウンサーが、急に不自然なぐらいに作り笑顔となって口を開いた。 「さて、続いては今注目を集める新しいコミュニケーションのかたちと題して特集をお届けします。荒木さんはSNSって利用していますか?」 「はい。友達と連絡をとりあうために使っています。」 「えーSNSはソーシャル・ネットワーキング・サービスと言って、インターネット上の交流を通じて社会的ネットワークを構築するというものです。いま、このSNSがネットの枠から飛び出して、リアル則ち現実の世界でも人々の交流を促進する取り組みがここ石川県から起こっています。」 男のアナウンサーがそう言うと動画が流れた。 街角でスマートフォンを触る様子を何カットか入れ、今や携帯電話市場におけるスマートフォンが占める割合は飛び抜けてきている。そこで街角インタビューが入る。どういったことにスマートフォンを利用していますかと。老いも若きも男も女も皆、口々に具体的有名どころのSNSサービスを挙げる。ここでSNSの仕組みを図を示して再度説明。 …

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80 第七十七話

78.mp3 金沢駅近くの会館前に相馬と安井が乗る報道車が到着した。安井は中継の連中と軽く打ち合わせすると言って相馬と若手の記者を置いて、一足先に到着していた中継車の方へ向かった。 「じゃあバイト君行こうか。」 「はい。」 報道車を降りた2人は会館のロビーにあるソファに座り、コミュの関係者の登場を待った。 「バイト君はSNSとかやってないの?」 「え?」 「その反応、まさかやってないとか言うんじゃないだろうね。」 「え…やってません。」 「駄目だよそんなんじゃ。アンテナ低いなぁ。」 「駄目…ですか。」 「そうだよ。いくらバイトって言ってもさぁ曲がりなりにも君、この業界で仕事してんだからさ、世の中の流行りってもんを抑えておかないと。」 「あぁすいません。」 「ったく、こんなんじゃ会話が続かないよ。」 「え?どういうことですか。」 「いい?SNSってのは日ごろ知っている人とか、昔の友人とか、はたまた雲の上の人みたいな有名人と時空を超えて繋がれる凄いツールなの。」 「はぁ。」 「つまり人同士の繋がりを電子化するってわけ。電子化することで何が起きる?」 「え…わかりません。」 「ほらぁこれだから流行に疎い人は、頭の回転も悪いんだよ。」 マスコミという業界の人間は個性的なため、この若手記者のような人の気持ちを考えない発言をする人間は結構いる。これをいちいち目くじらを立てているとこの手の業界で仕事は勤まらない。相馬はこの記者の言い草にむっとしたが、自分のスルー能力を…

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79 第七十六話

77.mp3 「つまり一色は朝倉の工作活動を阻止するために、マルホン建設とドットメディカルを結びつけた。ドットメディカルに入り込んだ今川に主要な立ち振舞をさせることで、影の存在であろうとする奴を表舞台に引っ張りだし、よからぬことをせんように監視の目が行き届く体制を構築させた。これがもうひとつの一色の意図するところやったんです。」 「なるほど。それが警察に潜入した潜入捜査官ってことですか。」 「はい。しかし、残念ながらあの事件で一色は落命。熨子山事件から三年で事態は確実に彼奴等にとって有利な展開となっとる。」 「石川の企業、官庁、病院の情報を抑えてそれを人質にとっている状態ですね。」 「はい。」 「しかしですよ。古田さん。そこまであなたが状況を把握しているんだったら、なぜ警察は動かないんですか。」 「と言うと?」 「自分はあんまり警察の捜査のこととかよくわかりませんが、古田さんが言うその推理をもって、朝倉や今川をさっさと逮捕すればすべてが丸く収まるんじゃないですか。」 腕を組んだ古田は納得するように頷いた。 「確かにあなたの言うとおり、ひとつひとつを着実に潰していくってのは正攻法なんかもしれん。」 「えぇ...ってか普通どんな仕事もそんなもんじゃないですか。」 「いや。従来通りの警察ならそうやるはずや。」 「従来通り?」 「はい。」 「え?じゃあ古田さんがいまやろうとしていることは従来通りではないと?」 「ええ。」 「どういう点で?」 「佐竹さん。ワシらの仕事…

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78 第七十五話

76.mp3 「どうしたん?さっきから時計ばっかり気にしとるけど。」 「え?…う、ううん。」 岩崎は手にしていた携帯電話を長谷部の指摘を受けて即座にしまった。 金沢駅隣接のファッションビル最上階にあるコーヒーチェーン店で、長谷部と岩崎は向い合って座っていた。 時刻は17時半。平日ということもあって店内は空いていた。 「どうしたの…。」 緑色のストローを咥えて先ほどから自分の様子をチラチラ見てくる長谷部に彼女は困惑した。 「…やっぱり元がいい人ってシンプルな格好しても栄えるんやね。」 山県久美子の店で新たにコーディネートされた岩崎の服装は変わっていた。 岩崎が持参した洗いざらしの比較的色が濃いグレーのTシャツに何をどう合わせるかということで、久美子が出した解が長谷部に前にあった。 ボトムスはダメージジーンズ。裾をロールアップし、素足にスニーカー。以上である。 「多分、長谷部君が買ってくれたこれが効いてるんじゃないのかな。」 岩崎は右腕に巻かれたシルバーのブレスレットを彼に見せた。 「んなら良かった。」 「これ…本当に良かったの?」 「あぁ、別に。似合っとったから。」 「でも結構な値段だったよ。」 「いいんやって。気にせんといて。人の好意は素直に受け止めるもんやよ。」 「…ありがとう。」 「こっちこそ大丈夫やったん?」 「え?ううん。なんてことないよ。」 長谷部はティアドロップ型のサングラスをずらし、その間から岩崎を見た。 「そう?」 岩崎はくすりと…

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77 第七十四話

75.mp3 東京霞が関。合同庁舎内の一室が朝倉の調査第一部長室に割り当てられていた。 「よくもまぁここまで調べあげたもんだ。」 そう言うと朝倉はノートパソコンを閉じ、それを鞄の中にしまった。 ドアをノックする音。 「入れ。」 「失礼します。」 「まぁそこに掛けてくれ。直江主席調査官。」 「はい。」 「当庁の情報を外部に漏洩しているモグラは突き止めたのか。」 「…金沢銀行の件ですか。」 「そうだ。」 「いえ。まだです。」 「手がかりもないのか。」 「はい。」 朝倉はため息をついた。 「直江…。公調はやる気があるのか。」 「は?」 「ここの捜査にはどこか手ぬるさが垣間見える。」 「申し訳ございません。我々が不甲斐ないばかりに。」 直江は朝倉に頭を下げた。 「警察はもう少し泥臭く執念深く捜査する。こんな事だから公調不要論なんかが国会で取り上げられるんじゃないのか。」 「元特捜の人間として部長のおっしゃることも分かります。しかし私は今、ここの人間。返す言葉もありません。」 ため息を付いた朝倉は立ち上がった。 「金沢銀行に侵入した人間は藤堂豪。この藤堂がコンドウサトミの顧客情報を抹消した疑いがある。つまり藤堂はコンドウサトミの情報が警察によって調べられると都合が悪かった。」 「ええ。」 「コンドウサトミとは3年前に石川県で発生した熨子山事件の重要参考人、鍋島惇の偽名だ。」 「はい。」 「この鍋島の口座情報を洗うことで新たな事実が明るにみなる可能性…

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76 第七十三話

74.mp3 「朝倉は鍋島の使用者やったんですよ。」 「雇い主ってことですか?」 「このあたりはちょっと複雑でしてね。単純な雇用関係じゃないんですわ。」 そう言うと古田は相関図の朝倉忠敏の名前から放射状に伸びている線を指でなぞった。 「え?今川?」 「はい。」 「今川って、まさかあの今川ですか。」 「ええそうです。佐竹さん。あなたが久しぶりにワシに連絡してきて、いの一番に素性を聞きたいって言った男の名前ですよ。」 「今川が朝倉・鍋島のふたりとどういう関係が。」 「同志。」 「同志?」 「鍋島はどうかはわからん。ほやけどこの今川と朝倉は同じ目標を持っとるのは捜査済み。」 「目標って…。」 「今川の経歴は佐竹さん。あなたに会って話した通りや。」 「ピッカピカのエリートコースでしょ。」 「ええ。ほやけど何でか分からんけどこんな裏日本の糞田舎の医療関係の会社の役員として、現在活躍中。変でしょ。」 「ええ。」 「しかも今現在はマルホン建設の買収をしようと工作。」 「はい。」 「この今川がいま、なんでマルホン建設の買収を企んどるか。そこを探ってみると朝倉との共通の目標が浮かび上がってくる。」 「それはなんですか。」 「マルホン建設はドットメディカルの提携をもって復活した。それは三年前、金沢銀行の山県支店長と一緒に善昌と交渉した佐竹さんならご存知でしょう。」 「ええ。」 「あの提携話の裏に一色の企てがあったこともあなたは知っとるはずや。」 「はい。マルホン建…

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75 第七十二話

73.mp3 「佐竹さん。熨子山事件は解決に至っとらん。」 「…。」 「どこかのタイミングであなたにはあの事件の真相を話さんといかんと思っとった。」 「…。」 「その時が来たんやわ。」 テーブルに置かれた村上のジッポーライターを手にして古田は間をとった。 「結論から言いますよ。」 佐竹は固唾を飲んだ。 「村上隆二は鍋島によって殺された。」 「…。」 そう言うと古田は1枚の写真を佐竹に差し出した。 黒のコートを纏った男がエレベータの中に入ってきたところを抑えた監視カメラの画像であった。 「鍋島...。」 「流石、高校時代に同じ釜の飯を食った仲ですな。一目見てこいつが誰だか分かったか…。」 「十河さんの話では病院の監視カメラは画質が悪くて、犯人の判別ができない状態だったって聞きましたけど。」 「あれは嘘や。」 「え…。」 「あれは鍋島の存在が割れると都合が悪い県警上層部がでっち上げた情報や。」 「でっち上げ…。」 「ああ。わしら現場の人間は作られた情報の上で踊らされとっただけや。ちなみに当時、村上が入院する外科病棟で見張りについとった男は、あれから2週間後日本海に打ち上げられた。警察はそれを自殺として処理した。」 「え?」 「この事実が何を物語っとるか勘のいいあなたはわかりますね。」 額に手を当てて佐竹は目を瞑った。 「そう。あの事件で村上が行ったと思われる犯行の全てがコンドウサトミこと鍋島惇によるものやった。そしてその鍋島の犯行を県警上層部のある人…

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74 第七十一話

72.mp3 金沢駅に隣接するファッションビルの前に立った長谷部は、その建物を下から仰ぎ見た。 「え?ここ?」 「うん…。」 自分たちと同世代もしくは少し若めの洒落っ気のある男女が辺りを歩いている。 彼は岩崎の形(なり)を見つめた。 白シャツにサマーカーディガンのマゼンタ色が映える。長谷部が知る岩崎はいつも代わり映えのない服を着て、世間の流行のようなものから自ら距離をおいている存在。それが今日はこの場に相応しい垢抜けた出で立ちである。意外な一面というよりも全くの別人。彼は戸惑っていた。 「あの…どうしたん?」 「え?」 「俺…岩崎さんのことやから、てっきりここじゃなくて駅自体に用事があるんかと思った。」 「なんで?」 「…えーっと、俺、岩崎さんってこんなイマドキの場所とか洋服とか全く興味ない人なんやと思っとってんて。」 「え?じゃあ私が駅に何の用事があるって言うの?」 「え?…ほら…例えばいま、金沢駅工事しとらいね。」 「うん。」 「俺、あんまりその手のこととかよく分からんけど、岩崎さんやったら、来年4月の北陸新幹線開通に伴うその経済効果的な奴を、実際の現場見て考えてみるとか…。」 「え?」 「あ、じゃあ…地方交通網の研究とか…。」 「何?フィールドワーク的な?」 長谷部は頷いた。 「あはは。」 感情を表に出さない岩崎が初めて長谷部の前で笑った。 「そう見えるんだ。」 「あ、あ…ごめん。変な意味で言ったわけじゃないげん。」 「いいの。」 「ごめ…

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73 第七十話

71.mp3 「…講義びっしり入ってるんじゃなかったの?」 「あ?…まぁね。」 笠舞のショッピングストアで岩崎を拾ってからというもの、長谷部は彼女を直視できないでいた。無理もない。隣りに座る彼女の姿は彼の知る岩崎ではなかったからだ。そう、昨日の晩に京子にコーディネートされた装いであったからだ。もっさりとした髪の毛も綺麗に頭頂部でまとめられている。長谷部の車は、宛もなく金沢市内を走っていた。 「…どうしたん。」 「何?」 「なんかいつもと全然違うから…。」 「変かな。」 「いや…そういう意味じゃなくって、なんちゅうか別人みたいやよ。いい意味で。」 「…ありがとう。」 「なんかモデルみたいやわ。」 「やめてよ。そんなすごい人と一緒にしないで。」 「いや、お世辞抜きですっげぇ綺麗やわ。」 岩崎も長谷部と決して目を合わせなかった。 「…ごめん。」 「何?」 「なんか俺、そっけないレスしてしまって。」 「…。」 車内は沈黙した。沈黙を破ったのは岩崎だった。 「…こっちこそごめんなさい。」 「え?」 「昨日なんて何回もメールくれたのに、ほったらかしで。」 「あ…そ、そうやったね。」 再び車内は沈黙した。 「あの。」 「あの。」 「あ、どうぞお先に。」 「え…そちらからどうぞ。」 なんとも絵に描いたような間の悪さである。2人は自然と笑みを浮かべた。 「どうしたん?昨日学校来とらんかったんじゃないけ。」 「え?」 「岩崎さんが学校サボるって珍しいか…

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72 第六十九話

70.mp3 人里離れた山間の公園に車を止め、タブレット端末を抱えて画面を見つめる男がいた。 「何が楽しくてこんな仕事してるのかな?」 こう言って男はおもむろにベルトを外しだした。そして陰部に自らの手をあてがって自慰行為を始めた。 端末の画面には山県久美子が勤務する店を俯瞰でおさえる映像が流れていた。彼は画面をピンチアウトして久美子を拡大した。俯瞰で捉えるそれは久美子の胸元を的確に抑えた。その時である、彼は手を止めた。 「チッ。」 何が彼をそうさせたのか、男は行為を中断して身を整えた。 「興ざめだよ。」 助手席に置いてあった携帯電話が震えた。 「なんだよ。空気読めねぇ奴ばっかだな。」 男はやれやれといった具合でそれを手にした。 「何だよ。」 「仕事がある。」 「今度はあんたかよ。」 「駄目か。」 「駄目じゃねぇけど。」 「じゃあ頼まれてくれ。」 「内容によるな。たて続けにしくじるわけにもいかんだろう。」 電話の向こう側の声は無言になった。 「早く言えよ。俺はいま、虫の居所が悪りぃんだよ。」 「…能登イチにあるものを届けて欲しい。」 「…能登イチ?」 「ああ。」 「何を届けるんだ。」 「それはお前に言う必要はないだろう。」 「…分かったよ。で、どうやって誰に届ける。」 「駅のコインロッカーにブツが置いてある。そいつをあの施設の予備電源の側に設置しろ。」 「設置…。はっ、何言ってんだよ。そりゃ届けるって言わないだろう。」 男は鼻で笑った。 …

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71 第六十八話

69.mp3 「山県久美子を雇うように古田さんに働きかけられた?」 「そうよ。熨子山事件の後、あの人ここに来て私に写真一枚見せて、この女雇ってくれないかって。」 「え?マスターは久美子と既に面識があったんですか?」 森は首を振った。 カウンター席に移動した岡田は出されたサンドイッチを頬張った。 「トシさんから久美子の事聞かされたときは、そんなひどい事って本当にあるのって感じで、半信半疑だったわ。」 「あ、ええ…。」 「けど、あの娘に実際会ってみるとそれが本当の事だったんだってすぐに分かったの。あの子の顔から表情が無くなっていたもの。」 「…そうでしょうね。」 「悪魔みたいな連中に弄ばれるだけでもとんでもない心の傷を負ってるっていうのに、その悪魔たちを懲らしめようと動いていた久美子の彼が、あいつらに返り討ちにされたんだから。」 森は細身のタバコを吸い始めた。 「私ね。こう見えても子供いるの。」 「あ…え?」 「女の子よ。今は東京の大学行ってそっちで就職してるけどね。」 「じゃあ…。」 「そうよ。当の本人が本当のところどういう感情を持っているか理解はできないけど、あの子の親の気持ちは痛いほど解る。この子をこのままにしておけば、本当に流れに任せて久美子は廃人になってしまう。ひょっとしたら自ら命を断つなんてことも考えられるわ。久美子がそうなってしまうと彼女の親はもちろん、死んでしまった彼も浮かばれない。それだけはなんとかできないかしらって。」 森はコーヒーに口をつけた…

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70 第六十七話

68.mp3 「Вы есть то, что?」 「Вы что-нибудь делать в спешке」 「понимание」 「Это хорошо в Юрий」 「Да, сэр」 録音された音源を聞いていた片倉はヘッドホンを外した。 「で、下間は何って言っとるんや。神谷。」 「話し口調から、目上の人間と会話をしているようです。内容は『どうしました?』『何を急いでいるんですか?』『了解』『悠里でいいですか』『かしこまりました』って具合です。」 片倉は頭を掻いた。 「あいつらにとって優先順位がそこまで高くなかったことを、急遽実行することにした。その実行には下間悠里が充てられる。ってことか。」 「悠里といえばコミュです。と言うことはこのコミュで予定外の動きがあるということでしょうか。」 「わからん。」 片倉は六畳間の畳の上に寝転がった。 「通話そのものが傍受できれば変な詮索しなくていいんですけどね。」 「しゃあねぇ。俺らは何か特定の事件の捜査を行っとるわけじゃない。水際捜査に通信傍受なんかこの国は認めてくれんがや。」 「さっさとスパイ防止法みたいのを成立させてくれませんかね。窮屈で仕方ないですよ。」 「スパイ防止法ね…。」 片倉は天井からぶら下がる電灯を眺めた。 「あと一歩やったんや…。」 「え?」 「神谷。おめぇさんがいくつの時か知らんけど、昔な、その法律の成立に体張っとった人がおったんや。」 「えぇそういう動きが国会にあったのは知っ…

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69 第六十六話

67.mp3 「はぁ!?」 「何ぃや…。」 「ちょ…お前、今なんて言った?」 キャンパス内の休憩所。自販機で飲料を買う相馬の横で長谷部が大きな声を出した。 「…だから、俺ら付き合うことになった。」 手にしていた紙製のカップを思わず落としそうになった長谷部の表情は呆然としたものだった。 「あ…そう…。」 「なにぃや、その気のない返事。」 「よ、良かったな…。」 「あぁ…。」 紙コップに口をつけて長谷部は近くのベンチに腰を掛けた。 「それにしてもいきなりやな。」 「まぁ、タイミングやわ。」 「何やったけ。お前ら高校からやったっけ?」 「…正直いつからあいつのことが気になっとったんか分からんげん。」 長谷部はフッと笑った。 「まぁ良かったいや。お前なら俺は文句言わんわ。」 「はぁ?文句?」 「お前も知っとるやろ。京ちゃんは人気もんや。見た目も性格も可愛い。」 相馬の脳裏に片倉京子の姿が浮かんだ。誰が見ても可愛らしい外見。そして服装も洒落ている。それなのに話しやすい。どう考えても倍率が高い女性だ。 「かくいう俺もファンのひとり。」 知っている。相馬は京子から聞いていた。長谷部に誘われた事があると。そしてキモいと一蹴した事も。 「お前でよかったわ。そこら辺の意識高い系とかオラついたチャラ男とかに持ってかれると、京ちゃんってそっち系なんけ?ってなって俺立ち直れんかったわいや。」 「ほうかね。」 「なんやかんやって言って、あの娘のどっかにはいつもお前の存在が…

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68 第六十五話

66.mp3 「おい。佐竹は?」 総務部に顔を出した橘は次長の松任に声を掛けた。 「あぁ部長。あいつ昨日から長期休暇なんですよ。」 「はぁ?休み?」 「ええ。なんでも調子が良くないとか。」 「そうなん?」 「はい。」 「ってか…ちょ、ほら…あれどうするんや。」 「あれ?」 「ほうやって、ほらウチのシステムの件。」 「それは出向組がなんとかする。」 総務部に入ってきた山県が橘の後ろから声をかけた。 「あ…部長…。」 振り返った橘は思わず一歩下がって山県に頭を下げた。 「なんねん。あんたも晴れて部長やろ。俺と同格や。そんなへぇこらしとると小池田さんの後任は務まらんぞ。」 「いえ、突然のことで私も分からないことばかりです。今後共山県部長のご指導と御鞭撻の程よろしくお願い致します。」 「やめれま。堅い。」 ここで立ち話も何だということで、山県は橘を経営企画部の自室へ誘った。 「とうとうお前もこの地位まで来たか。」 ソファに腰を掛けた山県に促されて橘は照れくさそうに彼と相対するように座った。 「佐竹はな、持病が悪くなってな。」 「あぁ…精神の病ですか。」 「ああ。部長やったな、佐竹の様子がおかしくなったっちゅうて救急車呼ぼうとしたのは。」 「ええ、まぁ。」 「あの時からっちゅうもん、何かとあいつの面倒をみとんのは橘部長、あんたや。佐竹の長期休暇の件は本当は真っ先にあんたに知らせんといかんがやけどな…。小池田さんの件とかあってバタバタしとったんや。すまん。…

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67 第六十四話

65.mp3 出勤早々ドットメディカルの自室で窓の外を見ながら携帯電話で会話をする今川がいた。 「ええ。なので小池田の件はボツです。ここでむやみにこちらが動いては、相手にいろいろ勘ぐられますので…。ええ、そうなんです。橘のやつが浮足立ってしまってこっちに報告を上げてこなかったってのが主因です。…いえ、ですが鍋島と橘が直接コンタクトをとるとどこで足がつくかわかりませんので、それだけは避けたいですね。はい、ごもっともです。申し訳ございませんでした。以後、こちらからも緊密に連携をとるよう心がけます。」 「もういいんじゃないか。」 「え?」 「鍋島にはそろそろ退場してもらおう。」 「え?本気ですか。」 「ああ、まずいネタが上がってきた。」 「どういうことでしょうか。」 「公安はお前の周辺を洗っている。俺はそれに便乗し、公安よりも先にお前の情報を手に入れる体である協力者に依頼を掛けていた。公安より角度の高い情報を手に入れて、こちらサイドで握りつぶすために。」 「ええ、存じ上げています。」 「協力者の情報は確度が高かった。お前個人の情報もさることながら、3年前の熨子山事件の周辺も調べあげてきた。」 「え…。」 今川は絶句した。 「協力者は当時の県警上層部の誰かが、鍋島の存在をもみ消したと推理している。」 「それはつまり…。」 「事件発生当初から一色の名前を出して公開捜査に踏み切ったり、捜査終盤で三好警備課長が突然更迭されたり、コンドウサトミという人物が鍋島惇であると断定され…

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66 第六十三話

64.mp3 「まぁとどのつまり、ウチの偉い方が鍋島の存在を隠蔽したってことや。」 「そんな…馬鹿なことが…。」 十河はふっと息をついた。 「県警本部の本部長でさえその存在を隠したがる存在。つまりバケモノや。」 「なぜそこまでして。」 「何やろうな。鍋島が生きとるってことがバレて具合が悪いことがあるんやろう。」 「じゃあその本部長が鍋島となんらかの利害関係があるってことか。」 「普通ならそう推理する。」 「ったく…何なんだよ、あんたら警察は。」 「勘違いせんでくれ。警察自体はそこまで腐っとらん。その象徴が一色の存在や。」 「でもその一色は死んだ。あんたが言っているその警察の幹部が、鍋島の存在を隠蔽したとなると、あいつの死は無駄だったってことになるんじゃないのか。」 十河は遠くを見つめた。 「無駄になるかはこれからにかかっとる。」 「これから?」 「あぁ。多分そうや。あの人は確かに死んだ。ほやけどその意志は確実に受け継がれとる。」 佐竹は黙った。 「佐竹さん。赤松さん。あんたらだって一色の意志を何らかの形で引き継いどれんろ。ほやからこの時間にこの場所にふたりして居る。」 「十河さん。」 赤松が口を開いた。 「鍋島って男は極めて注意せんといかん男です。」 「それは分かっとります。」 こう言って十河は佐竹を見た。 「ほやけど佐竹さん。あんたさっき、鍋島を殺さんといかんとか言っとったな。あれはいかん。」 佐竹は口を噤んだ。 「いちおうワシは警察や。あん…

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65 第六十二話

63.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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64 第六十一話

62.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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63.1 【お便り紹介】

お便り ハチノホヤさん2.mp3 今回はハチノホヤさんからのお便りを紹介します。 TBSドラマ「ケイゾク」の件/登場人物の名前の件/ 闇と鮒では皆さまのお便りを募集しています。 お気軽にウェブサイトからご投稿下さい。 よろしくお願いします。

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63 第六十話

61.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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62 第五十九話

60.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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61 第五十八話

59.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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60 第五十七話

58.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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59 第五十六話

57.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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58 第五十五話

56.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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57 第五十四話

55.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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56 第五十三話

54.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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55 第五十二話

53.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 ウェブサイトには音声とテキストでの物語もあります。良かったら御覧ください。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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54 第五十一話

52.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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53 第五十話

51.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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52 第四十九話

50.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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51 第四十八話

49.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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50.1 【お便り紹介】

お便り 菱川さん2.mp3 今回は菱川さんからのお便りを紹介します。 佐竹の着信伏線の件/郷土愛の件/配信遅延の予告の件 闇と鮒では皆さまのお便りを募集しています。 お気軽にウェブサイトからご投稿下さい。 よろしくお願いします。

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50 第四十七話

48.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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49 第四十六話

47.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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48 第四十五話

46.mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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47 第四十四話

45 .mp3 熨子山連続殺人事件から3年。金沢港で団体職員の遺体が発見される。 どう見ても他殺の疑いがあるこの遺体を警察は自殺と判断した。 北陸新聞テレビにアルバイトで勤務する相馬は、その現場に報道カメラのアシスタントとして偶然居合わせた。しかしその偶然が彼を事件に巻き込んでいく。石川を舞台にした実験的オーディオドラマ「五の線」の続編です。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※音楽は著作権フリーの無料音楽素材ダウンロードサイト「ミュージックノート」から使用したものと、AppleのGarageBandにはじめから入っていたもの、オリジナルのものを使用しています。 毎週1話ずつ地味に更新してまいります。 コメント等いただければ励みとなりますので、宜しければお願いします。 【ウェブサイト】http://yamitofuna.org 【一話から聞くには】http://gonosen2.seesaa.net/s/

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