2016年08月29日

109 第百六話



次々とブログによって明らかにされた工作活動の実態に、麗は観念した様子だった。しかしその表情はどこかさっぱりとしたものだった。
「このブログに出てくるSは下間芳夫。私のお父さんよ。」
運転席に座る長谷部も、後部座席の相馬も京子も何の言葉もかけることが出来なかった。
「この中に出てくる仁川征爾は私の兄さん。下間悠里。仁川征爾は長谷部君も相馬君も見たことあるはず。」
「え?」
「コミュのインチョウのことよ。」
「ま…マジ?」
「ええ。ドットスタッフ社長。仁川征爾よ。」
「え…。」
長谷部の歯はカタカタと音を立てだした。
彼は車中でツヴァイスタン時代に兄の悠里が家政婦を殺害したエピソードを聞かされている。今読んだほんまごとの記事によると、この仁川と名乗る麗の兄は能登の漁村でも通報者を殺害した疑いがあるとのことだ。ツヴァイスタン時代の悠里の犯行は下間家の生活が家政婦によって侵害されていて、どうにもできない状況に追い込まれてのものだった。このやむを得ない事情を最大限に加味して、長谷部はなんとかそれを受け入れることができた。だが能登の件は単なる口封じだ。スパイ活動が露見する恐れがあったため、都合の悪い人物を殺めた。そしてそれを父の力を借りて見事に隠蔽した。手段を選ばない下間家の冷酷さと周到さに、長谷部は恐怖しか感じることができなかった。
恐怖を感じたのは長谷部だけではない、車中の相馬も京子も同じである。
目の前の下間麗と言う女性の兄は人殺しも厭わないツヴァイスタンのスパイだ。そしてこの麗と父の芳夫もまた兄と同じツヴァイスタンのスパイなのである。
「怖くなった?」
車内の異変に麗は気がついたようである。
沈黙の中、相馬が口を開いた。
「その悠里って兄貴がそんなとんでもないことに手を染めるのも、下間さんがスパイとして日本におるのも、その今川がやっぱり原因なんけ。そこんところをもう一回確認させてくれま。長谷部経由じゃなくて、下間さんの口で。」
ため息をついて麗はゆっくりと口を開いた。
「…そうよ。」
相馬はどこか腑に落ちない様子だった。
今までの長谷部の言い分とほんまごとの記事を総合してみると、ツヴァイスタンのスパイによる工作活動は徹底したものである。麗はツヴァイスタンで生まれ育った。ということ麗にはあの国の教育が徹底されているはず。それなのに何故、こうもいとも簡単に自分の素性をさらけ出してしまっているのか。
「兄さんはツヴァイスタンから密航船を使って、能登のとある漁村から日本に上陸した。その時の様子はこのブログに書いてあるとおりよ。父さんがいた家から通じるトンネルを使って、村の外にいた協力者に手引されて東京に行ったの。そこで行方不明になっている仁川征爾の戸籍を乗っ取って、東京で大学生を演じ、そのまま大手の商社に入社した。」
「それで。」
「ツヴァイスタン語とロシア語って似てるの。だから兄さんはロシア語も喋ることができる。それでロシア担当ってことで、時々あの国に出張して、秘密裏にツヴァイスタンの関係者と連絡を取り合った。」
「それって本国からの指示を受けるとかってやつ?」
「多分…。」
相馬の質問に答えた麗の様子ははっきりとしないものだった。
「多分ってどうなん?」
「私もよくわからない。」
「なんで?」
「私達の組織は上意下達が徹底されているの。私は兄さんの命令しか聞かない。兄さんは父さんの命令しか聞かない。父さんは今川の命令しか聞かないって感じ。身分が下のものは上に言われた通りのことをするだけ。上の考えを忖度(そんたく)するようなことはしない。なぜなら上の判断はすべて執行部の意向を踏まえた命令だから。」
更に相馬は混乱した。
上からの絶対的な命令である日本でのスパイ活動がありながら、なぜ麗はこの段階でそれを放棄したのか。そしてなぜこの段で今川に離反をしたのか。事情を知らない自分と京子が、必死で長谷部と麗をくっつけるよう画策したのが、結果として彼女をそういう気持ちにさせたのか。はたまたこれもまたツヴァイスタンなりの工作活動の一環なのか。
「下間さん。」
「なに?」
「こんな事、俺が今聞いて答えるの難しいかもしれんけど。下間さんは日本に来て何をする役目やったん。」
麗は黙った。
「今川からの開放ってことは、つまりツヴァイスタンからの開放ってことや。それは下間さんが日本に来たそもそもの役目を放棄することやと思う。まずはそれをはっきりさせんと、どうすることがいいんかの判断ができん。」
「私は…。」
口ごもる彼女を車内の三人は固唾を呑んで見守った。麗は重い口を開いた。
「コミュの活動に心酔する勢力を作る。それだけ。」
「え?それだけ?」
麗は頷く。
「私、ほら一般的に綺麗な部類の人間でしょ。」
「え?」
「人間って単純なの。可愛いのに地味とか、男っ気がないって意外性に惹かれるの。で、その意外性に変に期待値を乗っけて、この子なら自分にもチャンスがあるんじゃないかって妙な錯覚に陥るの。もしもそんな不純な動機がなくても、自分ならコミュに参加することで私みたいに魅力的な人物になれるんじゃないかって思い込む。私はつまり客寄せパンダってこと。私は外見を最大限に活用して参加者を募る。そして参加者に最大限の理解を示して、あの人達を洗脳する。」
自分の美貌を道具であるかのように受け止める彼女は、先日までの謙遜的な岩崎香織ではない。
「洗脳…。」
「コミュには精神的に弱くなった人たちが集まる。精神的に弱くなった人たちの殆どが何らかの挫折とか苦労を味わってる。その悩みを抱えた人に心の隙間をつく言葉を投げかければ、彼ら彼女らはころっといくの。そしてその人達に悩みのもとにある問題の根源はいまの日本政府の政治体制にあると説く。私たちはそれを少しでも是正したい。それを少しでも改善したい。でも私達の力は吹けば飛ぶようなどうしようもないもの。だからあなたの力を貸して欲しいってね。」
滔々と洗脳プログラムを説く麗の姿に、相馬は恐れを抱いた。
「こうやってあくまでも参加者が自発的に革新勢力となるよう啓蒙する。そして自分たちは日本を良くする選ばれし者たちだと思い込ませる。大きな成功の前には得てして大きな苦難がある。いまは苦難の時。そしていずれ時が来る。時が来たら参加者にいまが行動の時だと号令をかける。」
「行動?」
「左右両方を徹底的に煽る。煽って世論を分断する。」
「そ…そんなことを…。」
「でも、もうそれはしなくていいって兄さんに言われた。」
「え?」
「私はお払い箱になったの。」
「お払い箱?」
「うん。」
「な・なんで?」
「あなた達の企みにまんまと引っかかってしまったから。」
「え…。」
相馬に衝撃が走った。
「あ…あなたたち?」
相馬の手にあったスケッチブックを取り上げた麗は、あるページを開いて再度それを相馬に手渡した。
それを見た相馬と京子の背筋は凍りついた。
「え…。」
そこには京子の父、片倉肇の似顔絵があったのである。
「やっぱり。」
説明の付かない汗が二人の額から流れ落ちる。
「2人の反応見てはっきりした。まさか京子ちゃんの片倉って、この片倉だとは思わなかった。」
「な…なんで…。」
麗の言葉に京子が反応した。
「なんでって…私こそ聞きたいわよ。」
そう言って麗は煙草に火をつけた。
「片倉肇。I県警警備部公安課所属。警察庁警備局警備企画課通称チヨダの直轄部隊の長。まさかこの男のご令嬢とはね。」
「公安?」
「そうよ。私達のような外国からのスパイ活動を取り締まる人たち。」
「え?」
「あ…その反応。知らなかった?」
京子はゆっくりと頷いた。
「じゃあ何であなた達、変な企てなんかしたの。」
「え?どういうこと?」
「なに惚けてるの?長谷部君と私をくっつけて私と兄さんの間に亀裂を生じさせようとしたんでしょ?事実私はそのせいで兄さんからお払い箱になったのよ。」
京子の目つきが鋭くなった。
「それって…私達のせいなん?」
「え?」
「私達のせいで下間さん。あなた長谷部と付き合わんといかんくなったん?全部私達の謀略のせいなん?」
「え…。」
「下間さん電話で言っとったがいね。ありがとうって。自分だけを見てくれる人に私の思ってること話したって。」
麗は口をつぐんでしまった。
「アレ何なん?嘘なん?百歩譲って仮に私らがなんかの企てしとったとしても、結果としてあなたは長谷部を選んだ。結果としてそれが下間さんとお兄さんの間に亀裂をもたらした。全部あなたの判断が原因やがいね。」
麗は何も言えない。
「下間さん。ここはツヴァイスタンじゃないげんよ。私ら別に今川みたいに、下間さんを統制下に置くために陰謀を張り巡らしたわけじゃないげんよ。個人の意志が尊重されんあの国と同じにせんといてま。」
「おい!京子ちゃん!下間さんの国をディスんなま!」
長谷部が割って入った。
「何!長谷部!あんたハメられて付き合うことになったって言う女が目の前に居るっていうげんに、なんでそれを弁護すれんて!ほんなやから舐められれんて!」
「うるさい!謝れ!今すぐこの場で麗に謝れ!」
「なんで!」
「長谷部君…。」
「謝れま!お国の事情は関係ないやろ!」
「謝らんわいね!なんで私がこの子に謝らんといかんげん!」
「…京子ちゃん。落ち着けま…。」
鼻息を荒くする京子を相馬がなだめた。
「周。あんた許せらん?あんたの友達に嵌められたってこの子言っとれんよ。」
「違うって…。」
相馬は京子に改めて麗を見るように言った。
「あ…。」
彼女の瞳からボロボロと涙がこぼれていた。
手で涙を拭った麗は改まって京子を見た。
「ごめん。わたし変なこと言っちゃった…。」
京子は黙って彼女を見つめる。
「そうよね。京子ちゃんと相馬くんのせいにするのはお門違いよ。私は長谷部くんのことが好きになってしまった。だからいまここにこうやって彼と一緒にいる。好きになるのは私の勝手。それなのに変ないいがかりつけてしまって…。」
「…わたしこそごめん。言い過ぎた。」
京子は麗に向かって頭を下げた。
「こんなに自分の意見を素直にぶつけ合える世界ってあるんだね。」
「え?」
「日本に来てから私はずっと岩崎香織だった。下間麗の存在を知られるなんてことはあってはいけないことだった。でも今の私は紛れも無く下間麗。私の発言をまっすぐ受け止めてくれる皆がいる。こんなの初めてよ。」
この言葉を発する麗の表情にはどこか清々しさを感じさせるものがあった。
「京子ちゃん。私をお父さんのところに連れて行って。」
「え?」
「私はツヴァイスタンのスパイよ。どうせならあなたの手で捕まりたいわ。」
唇を噛み締めた長谷部の肩は震えている。
「長谷部君ごめん。やっぱり私、自首する。」
「だめや。」
相馬が口を挟んだ。
「だめや下間さん。それは今やらんでいい。」
「え?」
「俺と京子ちゃんは長谷部から今川の呪縛からどうやったら下間さんを開放させれるんかの知恵を授けてくれって言われとる。確かにいま自首すれば下間さんの身の安全は確保できるんかもしれん。でもそれと今川からの開放は別次元の話や。第一人質にとられとる下間さんのお母さんはどうなれんて。」
「それは…。」
「なんや相馬。なんか妙案でもあるんか。」
相馬は腕を組んだ。
「なあ。」
相馬は目を瞑った。眉間にシワを寄せ、彼は長谷部を無視し続けた。
「おい。」
パッと目を開いた相馬は麗から手渡されていたスケッチブックを眺めた。そしてぼそっと声を発した。
「この人…。」
「なに周。」
京子の父の横に書かれた、髪を短く刈り込んだタバコを咥える男の似顔絵を見つめて相馬は何かに気がついたようだ。
「見たことある…。」
「どこで?」
「北高。」
「は?」
「あの時や…あの時やって。」
「なにぃね。」
「熨子山事件の時。剣道部のトロフィー見とった…。」
「は?」
「下間さん。これ誰?」
似顔絵を見た麗は答える。
「古田登志夫。I県警OB。」
「え?このひとも警察?」
「うん。」
「って…相馬くん。なんで熨子山事件のこと。」
「あの事件は金沢北高の剣道部の仲間内で起こった事件で、事件当時俺は京子ちゃんと一緒に剣道部やったんや。んでそのOBの人とも一応接点あって記憶が残っとるんやわ。」
「まさか…二人とも熨子山事件に関係があったなんて…。」
「なに?」
「そこから何ページかは熨子山事件の関係者の似顔絵が書いてあるの。」
「え?」
相馬はページを捲った。週刊誌報道やほんまごとなどで見た北高剣道部のメンバーと思われる似顔絵があった。
「なんで下間さんは熨子山事件の関係者なんか書いとらん?」
「この全員が私達ツヴァイスタンのスパイにとって要注意の人物だから。」
「は?ちょ待って。警察は普通にわかるけど、佐竹さんとか赤松さんはなんも関係ないがいね。」
「関係ある。」
「え、どういうこと?」
麗はスケッチブックの中のひとりの人物を指差した。
「一色貴紀。」
「え…この人がなんなん…。」
「警察庁警備局警備企画課。京子ちゃんののお父さんがいま所属する部署のかつての実質的リーダーよ。」
「え?」
「この一色に私達は水際で食い止められてきたの。」
「水際で?」
麗は頷いた。
「一色は県警の刑事部部長。でもそれは世を忍ぶ仮の姿。本当は公安警察として協力者を募る一方、警察内部に潜む私達の息がかかった協力者をあぶり出して、工作活動を封じ込めた。」
「警察に警察が捜査をする?」
「監察方の目も欺く、警察の警察による警察のための潜入捜査官。」
「なにそれ…。」
何かに気がついたのか麗はハッとした。
「どうしたん?」
「え…待って。さっき相馬くん、熨子山事件の剣道部OBと接点あるって言ってたよね。」
「あ、うん。」
「…まさかそれって…。」
「あ…その一色さん。」
「ってことは…まさかその時から一色は私らのこと…。」
相馬の返事に麗はがっくりと肩を落とした。
この時、京子の携帯には「至急報3」と銘打たれたほんまごとの記事が表示されていた。
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2016年08月22日

108 第百五話



両目をこすり、首を回したところに机の上に置かれていた携帯電話が光った。
「片倉さんすいません。キャッチです。」
「手短に済ませれ。」
「はい。」
携帯を手にした黒田は表示を確認した。見覚えのない番号である。
「あー丁度いいわ。ちょっとだけ休憩させてもらうわ。終わったら電話くれ。」
そう言って片倉は電話を切った。
誰からのものか分からない電話であるが、疲労が溜まってきた黒田にとって、この電話のおかげで自分に休息がもたらされたのは間違いない。彼はとりあえずそれに出た。
「はい。」
「北陸新聞テレビの黒田さんですか。」
「…え。はい。」
「面白いネタがあるんです。」
「え?」
脱力していた黒田は思わず姿勢を正して座り直した。
「誰から僕の番号教えてもらったんですか。」
「言えません。」
「なんで。」
「言えないから言えないんです。」
黒田はため息をついた。何かの嫌がらせかもしれない。彼は適当にあしらって片倉との電話に戻ろうと考えた。
「で、なんです?要件は手短にお願いします。」
「わかりました。手短に済ませます。」
「どうぞ。」
「明日、金沢銀行が記者会見を開きます。その発表内容を事前にあなたにお知らせします。」
「え?」
「あの会社で3年前から顧客の信用情報データベースを不正に改竄していた人間が行内にいたことが内部調査によって明らかになりました。金沢銀行は先ほどその人物に処分を言い渡しました。」
「え…ちょ・ちょっと待って下さい。」
慌てて彼はペンを手にとった。
「事実関係だけお知らせします。本日、金沢銀行で顧客の信用情報が改竄されている事実が行内の調査で発覚しました。行為者は改竄された信用情報を利用して特定の人間に対して優先的に融資を実行できるよう便宜を図っていたのです。行為者はこれによって自分の融資実績を不正に積み増ししていました。さらに彼はある人物からも利益を供与されていた疑いがあります。結果として行為者は先程取締役会で懲戒解雇の処分を言い渡されました。この件について金沢銀行は明日の朝10時から記者会見する予定です。今回はいち早く黒田さんにこの情報をお伝えしました。」
黒田の疲れは吹っ飛んでいた。
「それではこれで失礼します。」
「あ!ちょっとまって!」
彼は鼻息を荒くして電話の先の人物に質問をする。
「あの質問です。よろしいですか。」
「手短に済まさなければいけないんじゃなかったですか。」
「その…。」
「私に答えられることならお答えします。どうぞ。」
電話の先の人物は柔軟に対応してくれた。
「犯行に及んだ動機は?」
「現在のところまだはっきりとはしていません。」
「そうですか…差し支えなければ、その犯行に及んだ人物の役職と名前を教えてくれませんか。」
「公表は控えてくれますか。」
「ええ。」
「金沢銀行融資部部長 橘圭司。」
「部長?」
「はい。」
「かなりのポジションじゃないですか。」
「ええ、彼はつい先日副部長から昇格して部長になったところでした。その際の身辺調査ということで彼の周辺を調査したところ、今回の犯行が判明したのです。」
「なるほど。融資実績が好調な橘が部長職に格上げされた。しかしその実績は不正によって作り出されたものだった。」
「そういうことです。」
「今あなたは、特定の人物に融資を実行できるように情報の改竄が行われたと言いました。その辺りをもう少し詳しくお教え下さい。」
「改竄の対象となったのは主に消費者ローンの債務者です。金沢銀行では消費者ローンの融資審査の際、借り入れ申込者の所得を証明する書類の提供を求めます。所得証明とか源泉徴収票とかですね。その証明書はその場でスキャンされPDFのデータとされます。原本は事務管理課で集中的に取りまとめられ、能登の文書管理センターへ。実務はデータで行われます。橘はそのデータを何らかの方法で融資に都合の良いものに置き換え、ある属性の消費者ローンの実行金額を伸ばしていきました。」
「或る属性?」
「三親等以内に外国人がいる層。」
「え?」
「彼が融資部の副部長になってから、その顧客層の取扱件数、実行金額が膨れ上がっています。」
「え…。なんでその層だけを…。」
「彼がどういう動機でそういったことをしたのかは依然としてわかりません。ですが結果が全てを物語っています。橘は外国人を親戚縁者に持つ連中を優遇しました。そしてその報酬として、特定の人物から金銭を受け取っていました。」
「あの…その特定の人物とは。」
「金沢銀行にそのシステムを提供しているドットメディカルのCIO。今川惟幾。」
「え?」
「金沢銀行はドットメディカルのシステムを採用しています。つまり橘はシステム納入業者と結託して債務者の信用情報を改竄していたんです。」
「え…?でも…僕はよくわかりません。」
なんでシステム納入業者がそんな自作自演をする必要があるのか。自社のシステムの脆弱性を知らしめてあの会社に何の得があるというのだ。黒田は彼の言葉に不信を抱いた。
「実はドットメディカルはマルホン建設買収資金の融資を金沢銀行に願い出ていました。この件が今回の信用情報改竄の遠因となっています。」
「買収ですか?」
「ええ。マルホン建設は3年前の不祥事から立ち直るためにドットメディカルと業務提携をしました。その後資本においても両社の提携関係が深められます。これを受けて、マルホン建設の業績はV字回復しました。たった3年であの会社の売上高は当時の倍になり、マルホン建設の市場価値はぐんと高まりました。そこでドットメディカルはマルホン建設の更なる成長を図るためにマルホン建設にIPOをするべきだと迫るようになります。このドットメディカルの交渉担当者が今川惟幾なのです。」
「今川がマルホン建設の買収交渉担当者…。」
「マルホン建設の社長である本多善昌は今川の提案をことごとく突っぱねました。やがてドットメディカルとマルホン建設との信頼関係に微妙な空気が漂いだしました。ここで今川は一計を案じます。それが未公開株であるマルホン建設の買収です。」
「利害関係者の調整が手間だから、いっそのこと子会社して自分の思い通りにマルホン建設の経営をコントロールしようということですか。」
「はい。現在のマルホン建設の資本割合は社長の本多善昌が40%。ドットメディカルが30%です。残りの25%が本多の親族。そして残りの5%が金沢銀行です。今川はこの本多の親族と金沢銀行に狙いを定めました。」
「どういうことですか。」
「提携解消の噂を流したんです。」
「提携解消?」
「はい。マルホン建設のV字回復はドットメディカルによるところが大きい。そのドットメディカルがマルホン建設から手を引くとなるとどうなります?またもあの会社の業績は転落するのではないかとネガティブな憶測が飛び交います。マルホン建設の株は未上場。そこでドットメディカルは本多の親族を切り崩しに掛かった。」
「切り崩し?」
「ええ。今川は市中に出回っていないこの株を額面金額の3倍で買い取ると本多の親族に持ちかけたんです。」
「3倍ですか。」
「はい。マルホン建設の株は額面100万円。これが2,000株発行されています。本多の親族はこの25%ですから100万✕500株=5億円。5億の3倍ですから15億。これに親族の気持ちは揺らいだ。なにせ彼らは3年前の事件で一度、世間から本多善幸の不祥事と慶喜の自殺で世間から白い目で見られていますからね。」
「確かに。」
「一方、ドットメディカルはその株の買い取り資金を金沢銀行に融資するよう求めてきた。ドットメディカルがマルホン建設から手を引けば、あの会社の業績は転落する可能性が出てくる。しかしドットメディカルがマルホン建設を買収し、実質的な経営権を持てば、IPOをしてキャピタルゲインも狙えると。金沢銀行は中長期的に見てドットメディカルに分があると見て、ドットメディカルに融資をする方向で検討した。しかし。」
「しかし?」
「ある事実が融資を妨げました。」
「或る事実?」
「仁熊会とドットメディカルの関係です。」
「仁熊会?」
黒田の手が一瞬止まった。
「仁熊会の熊崎仁とドットメディカルの今川惟幾が市内某所で時々密会している現場を、金沢銀行が雇った探偵によって抑えられたんです。」
「反社会的勢力と成長著しい新興企業ですか。」
「反社会的勢力と仲良しな企業に融資をすることは何よりもリスクです。それに何よりも今回の橘の不正で明るみになったことがあります。」
「なんでしょうか。」
「橘は今川から資金を提供されて、特定の層の消費者ローン実行残高を水増ししていました。そして彼はその目覚ましい実績でもって融資部の部長まで昇進した。融資部の部長になれば当然、そのドットメディカルのマルホン建設株買い取り資金の融資においても一定の裁量を持ちます。」
「あ…。」
「つまり今川は業者として金沢銀行のシステムに入り込み、さらに行内の橘を協力者とすることで、常にドットメディカルにとって有利な状況を作れる基盤を整備していたということになります。これはいまあなたが書いたツヴァイスタンのスパイ活動と通じるところがあります。」
「え…?」
「ツヴァイスタンのスパイ活動になぞらえると、橘は現地協力者。今川はツヴァイスタンのスパイ。仁熊会がツヴァイスタン本体もしくは出先機関と言った感じですか。」
この時間にすでに自分が書いた記事が一定の読者に届いていて、それなりに理解が示されていることが第一義的に驚きであった。しかしさらに、なぜこの内通者は自分がほんまごとの管理者だと知っているのか。これには黒田は驚きよりも背筋が寒くなるのを覚えた。
「守衛が殺され、翌日には金沢銀行の総務部長が自殺と見せかけて殺される。この混乱に乗じてドットメディカルは金沢銀行に融資の催促をする。金沢銀行が事件の対応に奔走する中、マルホン建設との提携解消を流し、そのタイミングで自分の協力者を主要ポジションにねじ込んでくる。恐ろしい陰謀ですよ。金沢銀行は今回の件については関係機関に通報済みです。捜査の進展を見守ってしかるべき対応をとるよう検討をしています。」
「あの…。」
「少しだけと言っていたのに、随分と長い時間喋ってしまいましたね。」
「あの…最後にひとつだけ良いですか。」
「なんでしょう。」
「どうして…私がほんまごとの管理者だと?」
電話の向こう側の人物はひと時の間を持ってそれに答えた。
「エスですから。」
こう言って電話は切られてしまった。
「エス?」
黒田の携帯が震えた。片倉からである。
「すいません。片倉さん。どうしても外せないネタが入ってしまったんで。」
「ネタ?」
「はい。」
「何の?」
「あ…言えません。」
「スクープってやつ?」
「ええ。でも…。」
「なんねんて。」
「ネタ元がよくわかんないんです。」
「は?」
「ネタが凄すぎて、ネタ元が誰なのか聞くの忘れてしまいました。」
「はぁ…だらや…。」
「どうしましょう。」
「…でもおめぇ、それスゴネタやって思ってんろ。」
「…はい。」
「ほんならほんなもん、ネタ元ちょろまかしてブチかませ。ウラなんか適当にしときゃいいがいや。」
「でもスポンサーなんですよ。スクープの対象が。」
「だら。誰がテレビでやれって言ったいや。いまから上司に掛け合って絵抑えてとかやっとったらアホみたいに時間かからいや。」
「え?」
「ほんまごとやほんまごと。」
「え、これも?」
「こうなったらもう一切合切流せ。こっちのネタはまだまだあるんや。さっさと書けま。」
「でも…。」
「やれ。今日は徹夜の覚悟で来い。」
「て…徹夜?」
「ああ。1時間後また電話する。」
電話を切られた黒田は大きく息を吐いた。
「もうどうにでもなれ…。」
頭をかき乱した黒田はパソコンに向かって激しくタイピングを始めた。
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2016年08月15日

107 第百四話



「ちょ…。このSってまさか…。」
長谷部は絶句した。
隣りに座る麗はため息を付き、重い口を開いた。
「凄いわね。完璧よ。」
「え?」
「私たちのこと調べあげている。」
「長谷部。その先もちゃんと読め。」
後部座席の相馬がこう言ったっため、長谷部と麗は記事を読み進めた。

<S 再び>
いまから15年前の新月の暗闇の中、夜釣りに出掛けていた中年男性が妙な光景を目撃したと警察に届け出てきた。
釣り道具を抱えた高校3年程の風貌の少年が暗闇の中ひとり肩を抑えて漁村の中を歩いていたというものだ。どうやら少年は怪我をしているようで足を引きずっているようにも見えた。中年男性は高校生に声をかけた。しかし彼は見向きもしない。大きな声で呼んでも何の返事もしない。せめて足を引きずる少年に手を貸そうと中年男性は彼に近づこうとした。その時少年は振り返った。そして中年男性にこう言った。
「それ以上近寄るな。」
その時は周辺に明かりらしいものがなかったため、少年がどういう表情でこちらを見ているかはっきりとは分からなかった。ただ得も言われぬ負の力が自分の身体を覆い尽くそうとしてるということだけは、彼は感じたようだ。圧倒的な負のエネルギーに耐えかねて彼は思わず後ずさりした。気が付くと少年は海沿いの一軒の民家の前に立っていた。家の玄関に明かりがつき扉が開かれた。どうやらそれが少年の家のようである。
その時である。中年男性は家の明かりに照らされた少年の衣服を見て、異様さを感じ取った。少年の衣服には大量の血痕らしきものが付着していたのである。それは彼がおさえる肩の辺りに特に付いていた。中年男性の足は震えだした。玄関扉を開いた少年はその家に入っていった。
この通報は所轄の警備課所属のMの耳に入った。月齢表を確認した彼は手勢を連れて現場に急行した。
所轄から現場までは10分だった。しかし現場に到着するも通報者の姿が見えない。不審に思ったMは通報者の行方を探すよう部下に指示を出す。暫くして「漁村のとある側溝に男が倒れている」との報告が入った。Mがそこに急行すると首を鋭利なもので切られた、通報者の変わり果てた姿があった。
この頃、何事かと漁村の所々から住民が外へと出てきていた。部下たちは規制線を張り、現場の保全を始めた。
ここで何かに気がついたのかMはひとり海岸へ急いだ。漆黒の闇である海岸で懐中電灯を照らす。光線は波打ち際を沿うように当てられ移動し、やがて止まった。一艘の木造ボートが闇夜に照らされていたのである。Mは即座に緊急配備を依頼する。
Mは所轄を出る際に月齢表を確認している。これが何を意味するのか。
警察は掴んでいたのである。ツヴァイスタンが新月の深夜という最も闇が深い時期を狙って、日本に侵入していることを。
通報から現場到着まで10分。中年男性が目撃した少年はまだその家にいる可能性がある。周辺の聞き込みに戻ろうとした矢先、彼の目に妙なものが映りこんだ。振り返って再度ボートに光を当てる。よく見るとガンネルに何かがぶら下がっている。Mはボートに近寄った。そこで彼は足を止めてしまった。光の先に人間の腕があったのである。駆け寄るとそこにはこれまた首を鋭利なもので掻き切られた男の遺体が転がっていたのである。
通報者が言っていた血痕をつけた少年というのは、この事を指していたようである。首を鋭利な刃物で掻っ切る殺人の手口の共通点が見えることから、この船員と通報者の殺人は同一犯によるものと推定される。一刻もはやく重要参考人である少年を探さねばならない。Mは再び通報者の殺害現場へ戻った。
住民たちが事件を聞きつけて起きてしまったのか、先程まで真っ暗だった村の家々に明かりが点いていた。外に出てくる人数も多くなり周辺はちょっとした騒ぎになっていた。辺りを見回したMは一軒の古ぼけた木造家屋に目を止めた。明かりが点いていない。深夜であるため眠りについていて外の様子がわからないのだろうか。Mは住民のひとりに明かりが点いていない家のことを尋ねた。すると住民からは意外な答えが返ってきた。「知らない」というのである。
住民が知らないというのも無理もない。この一軒家は賃貸物件でウィークリーマンションのように利用されているため。住人が固定していない。そのため住民はこの家の主を「知らない」と言ったのだ。
田舎なのに知らない人間関係が存在することに違和感をもったMは、真っ先にそこに聞きこみをかけた。チャイムを何度か押すと、中から男が出てきた。それが瀬嶺村で公安の監視対象におかれていたSだったのである。
<Sと少年>
Sはここからしばらく言った先にある能登第一原子力発電所がもたらす環境破壊について調査していると答えた。本日調査を終え、明日ここを引き払うと言う。Mは一人の少年がSの家に入っていったとの目撃情報をぶつける。Sはそれをあっさりと認めた。
「調査の助手をしてくれている村井くんです。私のゼミ生です。」
部屋の奥から山本と名乗る男性が現れた。そしてMは彼の身元などを聞き、肩や足のあたりに怪我をしていないかを確認した。通報にあったような怪我をした様子はない。念のためMは他には誰もいないのかと尋ねるとSは村井ひとりだと答えた。玄関にある靴を見ると2つの靴しか無い。Mは首を傾げてSの住まいを後にした。
結果としてMの聞きこみは徒労に終わった。少年の存在はおろか少年の目撃情報も一切手に入れることができなかった。そして木造ボートで遺体で発見された人物の身元も確認できなかった。
かつて公安にマークされていたSが木造ボート漂着の新月の深夜に現地にいる状況を考えて、Sはツヴァイスタンの工作活動の何らかの補助をしているに違いない。
そう考えたMは後日引き払われたSの住まいを捜索した。部屋の隅々を捜索するも何一つ生活の後のようなものがない。手がかりなしと諦めたMが観念するように部屋の畳に横になった時のことである。Mは何かに気がついた。気のせいか床が少し凹むのである。Mは何度か畳の上を拳で叩いた。そして隣の畳の上も拳で叩く。音が違う。一方は中身が詰まったような音。もう一方は中が空洞のような音である。気になったMは自分が横になる畳をめくり上げた。釘で打ち付けられているはずの床板がずれている。シロアリの仕業かと思ったその時、Mは固まった。その先に見えるはずの基礎や地面がない。真っ暗である。急いで板を除け、そこを懐中電灯で照らし、明らかになったものを見てMは愕然とした。地中深くまで掘られたトンネルがあったのである。
その後の捜査でこのトンネルは漁村の人気のない場所に通じていることがわかった。そしてトンネルの中には目撃者が見たとされる、少年が来ていたと思われる血痕のついた衣服が埋められていた。また、乱数表が記載されたカードサイズの手帳のようなものも発見され、ツヴァイスタンのアジトとして使われていたことが明るみになった。
X氏は言う。
「目撃者の情報は正確だった。木造ボートで日本に侵入した少年は船員となんらかの争いを起こして怪我を負った。少年はその日Sの家に匿われ、トンネルを通じて漁村の外に脱出。警察が聞き込みに来ることを予め想定していたSは、村井という無傷の助手を立ててそれを少年の変わり身とした。」

「村井?なんでこの人物だけ実名?」
パソコンを覗き込んでいた神谷が呟いた。
腕を組んで記事を読んでいる富樫が言う。
「警部。聞き覚えありませんか。」
「え?なんです?」
「ほら…この間のコミュの特集。」
「麗の人気が爆発的に上がったあれですか。」
「ええ。その前段に出とったあいつ。」
「前段?」
神谷は額に手を当てて記憶を辿った。
「あ…。」
「思い出しました?」
「あれ…ですか?」
「何です?」
「ほら、コミュの共同代表とかって…。」
「正解。」
神谷は納得した表情である。
「この時期からすでに村井は下間とつながりを持って、ツヴァイスタンの工作活動に一役買っとった。当時の公安捜査でそれは明らかになっとる。悠里と僅かしか年齢が違わん村井は、あいつが東京におる間、下間の協力者として地元で反原発の旗を振り、能登イチ周辺の住民の意見を二分させるよう活動しとったんです。三好はツヴァイスタンの工作活動を止めることができんかったっちゅうて、この日以降、奴らを目の敵にして捜査をしとった。地味で記憶が遠くなるほどの情報収集の積み重ね。その集大成がこの三好ファイルですわ。」
富樫はファイルを手にしてそれをパラパラとめくった。
「警部。おそらくここで村井の名前を挙げとるってことは、あれですよ。」
タバコを加えた古田が口を挟んだ。
「なんです。あれって。」
「村井の動向に注意しろってサインです。」
「村井...ですか…。」
「ほら、今川言っとったでしょう。悠里と麗を明日のコミュで始末しろって朝倉が言ってきとるって。」
「ええ。」
「あいつらがあそこからおらんくなると、誰があそこを仕切るんです?」
「それは…。」
「共同代表の村井ですわ。」
神谷は黙った。
「村井が下間より上の立場の人間から何かの指示を受けたらどうすると思います?」
「それは…。」
「あいつらは上の命令には絶対に逆らえない。逆らえばそれは死を意味する。」

<突如もたらされた少年の身元>
X氏は続ける。
「Mはあの事件を後悔していた。結果として目撃者と船員の生命が失われた。Mは事件後Sに何度も聴取をとるが決め手にかけた。結局は目撃者が見たとする少年を捕まえないと重要な情報を得られないと判断したMは、地道に情報を集めた。しかしそれは暗礁に乗り上げていた。だが、その流れが変わった出来事があった。彼の捜査は予期せぬところで進展を見せる。当時石川電力の役員であった長尾との出会いだ。」
彼は東京第一大学工学部を卒業し商務省に入省。産業情報政策局電力安全課配属。その後電力畑をめぐって石川電力に天下った。ある日この長尾がMに接触を図ってきた。要件は能登第一原子力発電所の稼働に反対するSについて興味深い情報があるとのことだった。Mは長尾からもたらされた情報に唖然とする。
事件後間もなくして東京第一大学にひとりの少年が入学してきたが、その少年の保証人にSの名前があったのである。しかもその少年の名前は仁川征爾。瀬嶺村の仁川征爾と同姓同名であるというのだ。長尾はこの情報をMに提供する見返りに、Sへの監視を強化し、能登イチ周辺の住民の分断活動をするSの動向を封じ込めて欲しいと依頼してきた。Mは警察官としては協力しかねるが、個人としては協力すると言って長尾と結んだ。
すぐさまMは東京に立ち、仁川を尾行。住居を突き止める。ゴミから仁川のDNA付着していそうなもの何点か押収し、それを分析に出した。そこである事実が判明する。DNAの型がSのものと酷似していたのである。
X氏はこう言う。
「結果的に仁川はSの子どもだった。Sには2人の子どもがいる。そのうちのひとりということだ。そしてもう一人の子どもも今、背乗りして日本に潜伏している。」

これがX氏が私にいま話してくれたツヴァイスタンの工作活動の一例だ。放たれたスパイはこのように我が国に潜入し、世論を分断させるべく活動している。彼らは左右両方に協力者を募り、それらを巧みに操縦し、自国の利益に繋がるよう活動をしている。この背景を踏まえた上で再び熨子山事件に戻って記事を書くこととする。

「ピンポイントでバレちゃってるわね…。」
麗の言葉に車内は沈黙した。
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2016年08月08日

106.2 第百三話 後半



先の記事でツヴァイスタンの工作員が登場した。彼は鍋島惇への資金提供を行い、日本国内での協力者(エージェント)として利用した。熨子山事件から横道に逸れるようだが、これを機に今一度ツヴァイスタンと言う国と工作員(スパイ)についての記事を書きたい。
<ツヴァイスタンとスパイ防止法>
ツヴァイスタン民主主義人民共和国は中央アジアの共産国だ。一党独裁の政治体制を敷く共産国ネットワーク(通称CN)の主要国でもあり、基本的に自由主義経済権との国交はない。
ツヴァイスタンは自由主義陣営を敵視し、ことあるごとに自国の政策の失敗を自由主義圏の陰謀によるものとし、自国民を煽っている。この敵視政策で最も問題なのが我が国日本が主導して共産国に陰謀を張り巡らしていると定義していることにある。
ツヴァイスタンの我が国に対する工作活動は8年前の東京地下鉄爆破テロ未遂事件が記憶に新しい。テロの実行部隊は国際テロ組織ウ・ダバ。東京に地下鉄で同時多発的に爆発を起こして首都を混乱に陥れることを企図したものだった。しかし当時の公安はこれを未然に防いだ。その後捜査が進むに連れて明らかになってきたことがあった。ウ・ダバはツヴァイスタンからの多額の資金援助を受け、あの国からと指令を受けてこの事件を計画していたのである。この事実を踏まえ、時の政府はインテリジェンス機能の強化のためのスパイ防止法案を国会に提出。外国からの工作活動を封じ込めるための手を打とうとした。しかしこれに左派である野党が猛烈に反対した。国民の人権侵害に繋がるおそれがあるというのである。
野党の反対は想定の範囲内だった。しかし思わぬところからも反対意見が噴出した。法案を提出した当の与党内部からスパイ防止法の信義は一旦見送ろうという意見が出てきたのですある。
X氏はこういう。
「野党は与党の反対のことをするためにその存在意義がある。一方与党は政権を維持することに存在意義がある。そう考えると土壇場で味方であるはずの与党内部から土壇場で反対意見が噴出するのも理解できる。」
現在もそうだが、当時は日本の近隣諸国、とりわけ共産国の経済的台頭が目立ってきた時期だった。当時の日本はそれらの国の経済成長に乗っかる外需依存型の経済政策をとっていた。スパイ防止法はツヴァイスタンのような共産国からのスパイを取り締まるためのもの。この成立はそれら共産圏の国々の反発を買う。反発を買えば友好関係は棄損され、経済にも悪影響が及ぼされる。経済に悪影響がでれば票を失う。票を失えば政権の維持は難しくなる。
野党は人権、与党は経済とか票。その手の議論が国会内を覆い尽くし、気が付くとスパイ防止法議論からツヴァイスタンという存在は掻き消えていた。
「スパイ防止法が成立して誰が困るか。スパイ防止法が廃案になって誰が喜ぶか。」
このX氏の問いかけはシンプルであり核心を突いている。一般的な常識を持っていればこの解は直ぐに導き出せる。そうスパイである。そしてそのスパイに指令を出す敵対勢力である。
「当時すでに政治家や政権中枢にツヴァイスタンのエージェントが多数入り込んでいた。だから土壇場で論点を逸らして与党内の切り崩しが行われた。気が付くとツヴァイスタンのツの字も出てこない議論がそこにあった。」
X氏はこう私に漏らした。
これが事実であるとすらなば、政権中枢にすでにスパイの手が入っていながら、当時の国会はそれを排除することを拒否した。そしてあろうことかスパイ活動自体にお墨付きを与えてしまったということになる。
日本は間もなく戦後70年を迎える。日本の軍部が近隣諸国に侵略戦争をしかけ多大な迷惑をかけた結果、世界の反感を買い結果として日本は敗戦。国土は焦土と化した。日本はアメリカに負け、アメリカが勝利を収めたという見方が一般的である。しかしそれは本当のことだろうか。戦後の世界地図を見てみよう。朝鮮半島では北朝鮮、支那大陸では中国共産党、東南アジア諸国にも次々と共産国が樹立した。ヨーロッパ諸国でも共産国が多数誕生している。世界地図の多くが赤色に染まった。結果を見れば自由主義を標榜するアメリカも敗者であるといえるのではないだろうか。
戦前日本の中枢にはコミンテルン(共産党の国際機関 別名第三インターナショナル)が入り込んでおり、この勢力が巧みに日本を泥沼の戦争に引きずり込んでいったとされる説がある。日本の脅威はあくまでもソ連であった。しかしいつの間にかその矛先は支那事変の拡大、南進、アメリカへと変わった。結果日本はソ連とは真逆の方向に戦線を拡大。ソ連は日米双方が消耗しきったところで、参戦。火事場泥棒的にまんまと数多くの国々を自国の影響下に置くことに成功した。この現象は毛沢東が言ったとされる砕氷船テーゼをそのまま具現化したようなものである。
スパイ防止法廃案の流れもこのようなコミンテルンの策謀に似たような現象が起こっているのではないかとX氏は危惧する。
X氏はヴァイスタンの工作活動は現在でも活発であり、8年前のものよりも現在のほうがはるかに影響力は強いと言う。
ツヴァイスタンによる我が国への浸透工作の状況を危惧した彼は、私にあの国が具体的にどういった形で工作活動を行うのかの一例を教えてくれた。
<福井県の失踪した人物>
20年前、近畿地方の山間で土石流災害が発生した。日本の伝統的農業を継承し、牧歌的風景が評価される景色を有していたその地域は、カメラ愛好家の中で人気の場所であった。土石流はこの素晴らしい景色のすべてを破壊した。そして当時の住人と、その景色を抑えるために訪れていたカメラ愛好家の命を奪った。
土石流災害の死者行方不明者は8名。この中にいまだ行方不明の人物がいる。それが仁川征爾という当時高校生だった人物だ。
福井県の人里離れた山奥に瀬嶺村という廃村になった村がある。ここに残留孤児である仁川征爾の父親は辿り着いた。当時の地主は残留孤児の悲惨な状況を憂いて仁川の引き受けを買って出た。地主は彼に住まいを提供し日本語を教えた。仁川の父は勤勉で頭もよくわずか2年で日本語を習得、地元の工場にも勤務し、そこで日本人の女性と出会って征爾が生まれた。
征爾は写真が趣味だった。それはカメラ愛好家の父の影響によるものである。征爾は牛乳配達や新聞配達のアルバイトをして、フィルム代などを捻出して暇さえあれば父のお下がりのカメラで写真を撮った。その腕前はなかなかのもので、地域の新聞社が主催する写真コンテストで入賞するほどであった。当時の嶺南新聞の記事を見つけたのでここに貼っておく。
征爾はコツコツ貯めた金を使って時々遠征をするようになる。遠征先で見る新しい景色と向き合うことで征爾は腕に磨きをかけていくのであった。
しかしそんな中、彼は遠征先で運悪く土石流災害に遭う。
災害が起こっていつまでたっても征爾の安否が明らかにならないことに両親は精神的に追い詰められた。心労がたたったのかそれから間もなく事故で父親と母親が死亡する。
残留孤児という社会的ハンデを克服し、なんとか日本社会で再起を図ろうとしたひとつの家族の血がここで絶えることとなってしまった。私はこの取材を通して当時の地主から依頼されたことがある。未だ征爾は行方不明。せめてこの安否だけははっきりさせて欲しい。もしも何らかの形で征爾が生き延びているならば、彼の父が使っていたカメラを使って、その姿を映してくれと。私は地主から仁川の遺品であるカメラを預かった。
災害から20年。人々の記憶からあの悲惨な情景は消えつつある。そんな中で私個人の力で征爾の安否をはっきりさせるのは難しい。私はダメ元でX氏に協力を仰いだ。意外にも彼は私の依頼をすんなりと引き受けてくれた。私は彼に仁川のカメラを託した。それから数日後、X氏は私にこう言った。
「仁川征爾は生きている。しかしその人間は土石流で行方不明になった仁川征爾ではない。」
X氏の言葉の意味がわからない私は戸惑った。彼は続けてこう言う。
「背乗り。ツヴァイスタンがよくやる手口だ。」
背乗りとは戸籍を乗っ取ることで、その人物になりすます行為を指す。X氏は仁川征爾を名乗る男の写真を携帯で撮って私に送ってきた。私は先ほどの嶺南新聞の仁川征爾の写真とそれを見比べた。結論は全くの別人である。
X氏は現在の仁川征爾の情報を私にもたらしてくれた。福井県出身。38歳。東京第一大学卒業後、大手商社に勤務。現在石川県の人材派遣会社の社長であるそうだ。
<仁川両親の死の謎>
さらにX氏は衝撃的な事実を明かす。
「仁川征爾の両親は事故死とされるがそれは嘘だ。事故に見せかけて殺された。」
征爾の両親は自宅近くのカーブが続く道でハンドル操作を誤って、車ごと崖から転落した。一見ありそうな事故であるが不可解な状況が記録されているという。当時の現場の状況を示す資料を見るとブレーキを踏んだ跡がないとのことなのだ。通い慣れた自宅近くの道での事故にも関わらず、危険回避動作が全くされていない。これは地主も同じことを話していた。そのため子供の安否がわからないことを苦にした仁川が、妻とともに心中を図ったのでないかと噂されていた。しかしX氏はこれを殺人であると断じる。
瀬嶺村は若狭湾の山間の集落。ここは原子力発電所の集積地で、原発銀座とも言われる。度重なる不幸が仁川家に押し寄せたそのころ、この辺りは原発の新規建設ラッシュであった。幾つもの半島からなるこの若狭湾地方は原発誘致によってヒト・モノ・カネが集まりだした。原発は我が国の科学技術の粋を集めたもので、産業スパイが入り込まないよう当時の公安は警戒をしていた。そこで公安はある人物の存在を確認する。この人物を仮にSとしよう。
原子力工学の専門家であるSがこの時期に若狭湾周辺にいることは何の不思議もないことだった。何故Sが公安にマークされていたか。そうツヴァイスタンへの渡航歴があったためだ。日本を敵視する国交のない国ツヴァイスタンを行き来する人間。これには必然的にスパイの疑いがかけられる。
「当時ある空き家から乱数表が発見されたり、不審な船を目撃したとか、妙な短波放送が飛んでいるといった報告が寄せられていた。」
X氏はこう言って持論を展開する。
当時、若狭湾周辺はSだけでなく他にもスパイは複数いた。それらは辺りのめぼしい住民に金を渡し、協力者(エージェント)として取り込んだ。なぜ彼らは協力者を募るのか。それはスパイ自身が動くといろいろと足がつきやすいためだ。あくまでも実行部隊は現地協力者。むしろスパイ自身は主にそれらを組織して監督・調整をするほうに活動の主軸を置く。仮に特定のコミュニティの内部情報を得たいとする。その場合、スパイ自身がそこに乗り込んで自ら情報を仕入れるような真似はしない。そのコミュニティにすでにつながりがある人間にスパイが接触。その人間と信頼関係を構築し協力者とする。そして協力者に情報を獲ってきてもらうと言った具合だ。
仁川は事故当日、自分の車を自動車修理工場に入れている。その時の修理記録はエンジンオイルの交換と各種点検だ。そんな整備済みの車が突如ブレーキの不具合などを起こす可能性は低い。当時の警察の記録はブレーキオイルが全くない状況だったとの記載があるが、前後関係を考えてそんなことがはたしてあり得るだろうか。仮にそれが事実だとすると、その修理工場が車の走行中徐々にオイルが抜ける細工を施したとしか考えられない。当時Sをはじめとするスパイが若狭湾周辺に潜伏して現地協力者を組織していた。仮にこの修理工場が協力者だったら…と考えると身の毛もよだつ。その修理工場は仁川の事故後暫くして店をたたみ、経営者家族はどこかに行方をくらました。仁川家の存在はこの事件を持って世間から消し去られたのである。

「待って…。この記事にあるSって…。」
相馬は唾を飲み込んだ。
「おい。相馬おめぇこんな時に何携帯なんか見とれんて。」
「まて...まてま…長谷部。お前もこれ読んでみぃま…。」
「あん?」
車を止めた長谷部は携帯を手にして相馬同様「ほんまごと」を麗と一緒に読み始めた。
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106.1 第百三話 前半



「片倉邸から出てきた周と京子は、相馬の家に入りました。」
「そうか。」
「片倉邸の警備はどうしますか。」
「カラの家の警備は必要ないだろう。」
「では撤収させます。」
警察庁の一室にいた松永は耳に装着していたイヤホンを一旦外し、小指で中をカリカリと掻いた。
「理事官。」
一緒に部屋に居た部下が彼の名前を呼んだ。
「どうした。」
「現場が動き始めたようです。」
「おう。」
松永は再度イヤホンを装着した。
「熨子山事件に関する記事がアップされはじめ、それがSNSによって石川県を中心に拡散が始まっています。」
「熨子山事件だと?」
「ええ。ほんまごとというブログです。」
「ほんまごと…。北陸新聞テレビの黒田か…。片倉の奴賭けに出たな。」
「これはどういうことなんですか。」
「詮索無用。俺は現場から報告を受けている。」
「ですがこれ…あの事件の核心をついたネタばっかりです。藤堂、いや鍋島の生存と潜伏情報まで開示しています。」
「いいんだ。市民への注意喚起だ。」
「しかし拡散がひとたび始まると、いずれそれは全国的に広がりかねません。」
「心配はない。そのあたりは厳選されたインルフエンサーに一次拡散を仕掛けることになっている。石川県中心に影響力をもつ連中にな。」
「そうですか…。」
「それにな。世の中の大多数は熨子山事件のことなんて興味ない。そんな事件あったっけ?ってもんだ。いくら拡散希望と銘打って極めて真実に近い情報が書かれたリンクを貼ったところで、そこを踏むなんて行動はしない。しかし地元の人間は違う。地方都市であれほどの事件なんてそうそう発生しない。あの時リアルタイムで熨子山事件の報道に接していた石川の連中はかなりの確率でそれを見るだろう。」
「二次・三次と情報が伝播したところで、その拡散の範囲は限定されるってことですか。」
「ああ。だがそんな情報でも何となくリンク先を踏んで、そこにあるほんまごとを読む連中は全国に一定の割合で現れる。そこで事の重大さを知ったそいつらがまた拡散。結果的にはお前が言ったように全国的にほんまごとは拡散するかもな。」
「なるほど。その一定の時間を経て拡散というところに理事官の意図するところがあるんですね。」
「ふっ…俺じゃない。現場の判断だ。」
部下は含み笑いをした。
「こちら相馬邸。」
無線が聞こえたため、松永も部屋にいる者も一瞬にして険しい顔になった。
「なんだ。」
「車が1台、家の前に横付けされました。」
「なに?」
「あ…。」
「どうした。」
「し…しもつま…。」
「下間?」
「えぇ…。」
「下間ってどの?」
「麗です。下間麗が助手席に乗っています。」
「何だと…。」
「直ぐ送ります。」
ものの5秒程度で部下の前にあるパソコンに現場の状況が動画で送られてきた。それを見た松永は唾を飲み込んだ。
「本当だ…。」
映像を補足するように現場から無線が入る。
「運転席には周の友人、長谷部。あ…家から周と京子が出てきました。」
映像の2人はそのまま長谷部の車の後部座席に乗り込んだ。
「理事官。」
「付けろ。」
「了解。」
ハザードランプを消した車は2人を載せその場から走り去っていった。
「しまった…。周の友人か…。ノーマークだ…。」
「どうします。理事官。」
「片倉には言うな。いまここで奴に動揺されては困る。」
「は…はい。」
「拉致とはまだ決まっていない。現場が付けている。奴らを信じよう。」
腕を組んだ松永は部屋の中を歩き出した。

無言で車に乗り込んだ相馬と京子は車内においても口を噤んだままであった。
2人の視線は下間麗の後ろ姿にある。今日の彼女は髪をおろし、地味目の服装の普段の彼女だ。
「相馬、京子ちゃん。」
沈黙を破ったのは長谷部だった。
「いま俺の隣りに座っとるのは岩崎さんじゃない。」
相馬と京子はお互いを見合って頷いた。そして相馬が白々しく長谷部に答えた。
「は?」
黙ってしまった長谷部はなかなか続きを話さない。
「え?…お前…何なん…。何意味わからんこと言っとれんて。まさかここ最近の暑さで頭やられた、いや、岩崎さんと良い感じになって頭おかしくなったんじゃねぇが。」
「ちょっと…周…言い過ぎよ。」
京子が窘めた。
「わりぃ相馬。頭おかしくなったんやったらほんでいいんや。」
「え?」
「でも違うんやわ。俺の隣りに座っとるのは岩崎さんじゃない。」
「おいおい…じゃあ何やって言うんやって。」
「シモツマレイ。」
「はぁ?」
やはり長谷部は知ってしまったようだ。しかしどういった経緯で彼はその事実を知ったというのか。とりあえず相馬はこの場は長谷部に合わせて様子を探ることにした。
「あの…そんな意味不明なことで俺ら呼び出したんけ。長谷部…お前だけなら良いけど、当の本人がそこにおれんぞ。付き合ったなんりなんに失礼やと思わんがか?」
「そりゃ失礼やわいや。俺が言うことがただの冗談なら。」
岩崎は黙ったままである。
「え…。岩崎さん…?」
彼女は返事をしない。
「俺の隣に座っとるのは岩崎香織じゃない。下間麗って子や。」
「し・も・つ・ま…?」
「ああ。石大の下間芳夫教授の娘さん。」
「ちょいちょいちょい…。」
「ついでに言うと下間さんは日本人じゃない。」
「え?」
一色の手紙には書かれていなかった情報が長谷部の口から出てきたことに驚いた相馬は、思わず京子を見た。京子のほうも驚きを隠せない様子である。
「ツヴァイスタン。」
「ツ…ツヴァイスタン?」
相馬に衝撃が走った。
「岩崎香織って架空の人間に成りすまして、ツヴァイスタンからこの日本に密入国したんや。」
「え…。ってか…ツヴァイスタン?」
「ああ。日本と国交のない共産党一党独裁の世界でも異色な国。本当のことやから下間さんは黙っとる…。」
麗は反論も何もせずにただ流れ行く景色を窓から見つめている。
「俺だって信じられん…けど、本人から聞いたんや。本人の言葉を信じられんがやったら、俺らの関係なんて成り立たん。」
「…。」
「相馬。京子ちゃん。別に俺を信じろなんて言わん。けど下間さんだけは信じてやってくれ。」
さっきまで2人は「ほんまごと」の記事を読み、熨子山事件にツヴァイスタンの工作員が深く関与していたという情報に接している。目の前にいるこの女性もまさかそのツヴァイスタンの工作員のひとりだとでも言うのか。2人は困惑した。
「ほんでお前…受け止めきれるかわからんって…。」
「あぁ。」
好きになってしまった女性が身分を偽るどころか、ツヴァイスタンの工作員の疑いがある。長谷部が気持ちの整理ができないのも至極理解できる。
「なんで下間さんが誰かになりすましてここにおるか。」
彼女がツヴァイスタンの工作員だとするとその動機はひとつしかない。なんらかの命令でここ日本に工作活動をするためにやって来た。一色の手紙には彼女は重たい十字架を背負っているとの言葉があったが、それはツヴァイスタンという背景を指したものだったのかもしれない。
「或る男によって下間家が支配されとるから。」
「或る男が支配?下間家を?」
「おう。」
「え…特定の誰かがその…し・しもつまさん家をいいように操っとるってか?」
「ほうや。」
ツヴァイスタンという国家的なものではなく、個人によって下間は支配されているというのか。
「人質が取られとるんや。」
「人質?」
「ほら相馬。あのツヴァイスタンって国の報道とか見たことあるやろ。」
「ああ。テレビとかで。」
「本人前にして言うのも何やけど、あの国は報道で見る限り未だに中世の世の中みたいなところや。執行部とかって言われとる党の上層部の判断に異を唱えれば即刻死刑。もちろん裁判も何もない。裁くための法律すらろくに整備されとらん。」
「そうらしいな。」
「逆を言えば、党に気に入られさえすればトントン拍子に出世。」
「おう。」
「下間さんはそんなあの国で党に気に入られようとした或る男によって利用された。」
「え…?」
「下間さんのお父さんはある日党の命令で日本へ渡ることになり、家から姿を消した。そこで或る男が下間家に接近。一家の大黒柱が不在の下間家に経済的人的援助をした。その後、病気がちの母親を最高水準の医療を提供する病院へ入院させ、医療介護の保証を買って出る。つまり父親不在時の面倒の一切をみることを引き受けた。しかし他人の面倒を無条件に見るほど、立派な人間はそうはいない。この男もそうやった。」
「どういうことや。」
「あの国の病院ってやつはすべて党の統制下に置かれとる。つまりそれは言い方を変えれば党に常時人質に取られとる状態。もしも党の命令に背くようなことがあれば、いつでも入院中の母親の医療行為を停止することができる。」
「え?」
「或る男が病院の斡旋をした。つまり或る男は下間さんの母親の生殺与奪権を事実上その時点で握ったことになる。」
「…。」
「もしも下間家の人間が或る男に楯突いたとする。或る男が俺に楯突くのは党に楯突くのと同じやって言って、有る事無い事党にチクったらどうなる?」
「それは…。」
「…そういうことや。」
この時携帯が震えたため、京子はそれを手にとった。
画面には至急報2の文字が表示されている。ほんまごとの更新が成されたようだ。彼女は長谷部と相馬のやり取りに耳を傾けながら、携帯に目を落とした。
「それ以降、下間家は或る男の支配下に置かれ、そいつの手柄を演出するために生きた。その一環として下間さんがここ日本に居るっていう現状がある。」
ツヴァイスタンと言う国は自国で養成したスパイを西側諸国に放ち、敵対国への工作活動を活発に行なっているということは報道で誰もが知るところである。
「ツヴァイスタンの工作員ってやつか…。」
この相馬の言葉を受けて長谷部はしばらく沈黙し、ゆっくりと頷いた。
「下間さんの働きは或る男の手柄。或る男は手柄を得てあそこの党の主要なポジションを得ることができるってサイクル。」
「んな…だらな…。」
長谷部はため息をついた。
「そこで本題や。」
「え…なに…?」
「その或る男って奴から、下間さんを助けてやりたい。」
「は?」
何を言ってるんだ。そもそも下間の母親はツヴァイスタンという未開の国にいる。日本と国交すらない国だ。その中で起こっている問題をどう解決せよというのだ。それに或る男が下間の母親を事実上人質にとっていると言え、背景にツヴァイスタンという国家がある。個人が国家に対抗するとでも言うのか。しかも国境を超えて。現実離れした長谷部の思いに相馬は半ばあきれた顔をした。
「幸いその或る男はいま、ここ日本に居る。」
「え?」
「しかも金沢に。」
「金沢?」
「おう。」
「え…どういうこと?」
長谷部は助手席の麗からスケッチブックを受け取り、それを相馬に手渡した。
そこにはあごひげを蓄えた中年男性が一筆書きのようなタッチで描かれている。
「今川惟幾。ドットメディカルCIO。」
「え?」
「こいつから下間さんを助けてやりたい。相馬、力を貸してくれ。」
「え…どうやって…。」
「わからん。わからんからお前に相談しとる。」
「ちょ…。」
相馬は戸惑った。
「ちょっと周…。」
戸惑いと混乱が彼の心理をかき乱す中、隣りに座る京子が相馬に声をかけた。
「なに…。」
「これ…。」
京子は相馬に携帯を渡そうとする。
「え…携帯?ちょ...京子ちゃん。それいま見んなんけ。」
「うん...。タイムリーなこと書かれとる。」
「タイムリー?」
「ほんまごと。」
「え…。」
携帯を渡された相馬はそれに目を落とした。
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2016年08月01日

105.2 第百二話 後半



21時になろうとするドットメディカルの一室にはまだ明かりが灯っていた。
パソコンと向き合う今川は時折送られてくるユニコードを変換し、それに返信をする作業をしていた。

Это тот факт, что Юрий знает о местонахождении Набэсима.
ユーリは鍋島の居場所を把握しているということだな。

возможно
おそらくは。

Является ли капитан знает подробности?
キャプテンはその詳細を把握しているのか

Нет
いいえ

汗を拭った今川は大きく息を吐いて天を仰いだ。
ー執行部はどうすると言うんだ…。このまま放っておけば悠里は期限までに何らかの方法で鍋島を片付ける。それが執行部にとっては面白く無いんじゃなかったのか?
今川はパソコンの画面を見た。
ーさっきから執行部は悠里の周辺状況を聞くだけで、鍋島排除の停止命令を発してこない。執行部からストップがかかればいつでも悠里にその命令を言い渡せるのに…いったい何を企んでる…。
再びメールが届いた。

План после даты Набэсима исключения?
鍋島排除の期日後の計画は?

Запустите пример массива
例のアレを実行します

"Пример"?
例の?

Ни в коем случае не делать этого тоже не знаете?
まさかこれもご存知でないのですか?

Не слушайте.
聞いていない

今川の額から再び大量の汗が吹き出していた。
ーなんで…。なんでこんな大事なことを…。
矢先、彼の懐にある携帯電話が震えた。画面に表示される文字を見て、それを取り出した今川の手は震えだした。
「キャプテン…。」
今川は無意識のうちにキーボードを叩いていた。

Существует телефонный звонок от капитана. Как I.
キャプテンから電話あり。どうすればいいですか。

Я из
出るんだ。

深呼吸をした今川は電話に出た。
「はい。」
「…どうした。声に元気が無いぞ。」
「あ…いえ…ちょっと仕事が…。」
「そうか。」
「ええ…。」
「鍋島の件はどうだ。」
「下間に任せてあります。」
「その後の手筈は。」
「え?」
朝倉はため息をついた。
「言っただろう蜥蜴になれと。」
「…。」
「先の先を読まないことには後手に回るぞ。」
「先の先…。」
「明日だろ。」
「…ええ。」
「あれが起こされてからだと尻尾は切りにくくなる。」
「しかし…悠里や麗が居ないことには、コミュの実働隊の統率が取れません。」
「確かにな。だがこういうのはどうだろう。」
「なんでしょう。」
「その明日のコミュに突如反乱分子が侵入。何らかの形でその場で悠里と麗がその輩に殺されるってことになれば。」
「え?」
「どうだ。」
今川の手は再び震えだした。
「目の前で運動のシンボル的な存在が無法者によって殺害される。それに怒り狂った一部の狂信的な者たちがかねてより悠里の指示で準備していた行動を実行に移す。」
「え…。」
「どうだ。いいシナリオだと思わないか。」
「し…しかし…。」
「お前の秘密を知る3人のうち2人は見事綺麗に掃除され、あとに残るのは下間芳夫のみ。」
「下間ひとりはお前の手でなんとかなるだろう。」
「そ…それは…。」
「コミュには村井とかという男が居る。こいつは悠里の狂信的な信者だ。悠里の意志を引き継いでコミュを統率できる力を持っている。明日のコミュの決起に関しては問題はなかろう。」
「…。」
「問題はその掃除屋に誰をあてがうか…。」
「…。」
「どうした今川。何黙っている。」
「…いえ。キャプテンのあまりもの深謀遠慮でしたので…。」
「それは額面通り褒め言葉として受け止めてもいいのか?」
「…はい。」
朝倉はクスクスと笑った。
「今川。熊崎を使え。」
「は?」
「悠里ほどの実力をもった人間を確実に葬れる人間は限られている。その手の人材をカタギに見出すのは難しい。ときにはシノギの力を借りるのも良いだろう。」
「仁熊会ですか…。」
「ああ。直ぐに手筈を整えろ。あいつらも準備ってものがあるだろうからな。」
「かしこまりました。」
「後は明日の決行を待つだけだ。」
「…キャプテン。」
「なんだ。」
「…片倉の件は。」
「順調だ。これも明日こっちに来るようになっている。」
「こっちに?東京にですか?」
「ああ。貴様から送られてきた画像が示すように、あいつの精神はギリギリの状態だったようだ。」
「と言うことは。」
「ああ籠絡した。明日、県警の公安部隊は隙だらけになる。」
「…。」
「面白いことになるぞ。」
こう言い残して電話は切られた。それと同時期に再びメールが届いた。

Отчеты белый.
報告しろ。

Инструкция по делу урегулирования Юрия и Рей в завтрашнем сообществе.
明日のコミュで悠里と麗を始末せよとの指令。

Что вы будете делать?
お前がやるのか

Нет. Летучая колонна.
いいえ別働隊に

Летучая колонна?
別働隊?

Да. Jin'yuukai.
はい。仁熊会です。

Было найдено. После того, как Оставьте его здесь.
わかった。後はこっちに任せろ。

Как мне меня.
私はどうすれば?

Мы продолжаем ждать.
引き続き待機。

постижение
了解。

メールのやり取りは終わった。
ー仁熊会への手配はどうすればいいんだ。朝倉から熊崎へ確認が入ったら、俺のサボタージュがバレる…。だが執行部は任せろと言ってる…。あぁ…俺はどうすればいいんだ…。
今川は頭を抱えた。
ー下間一族を消せだと…。あいつはどこまで非情なんだ…。この調子だといずれ俺も…。
ふと彼は窓に映り込む自分の姿に目が行った。
数日前の自分の顔と比較して頬はげっそりとし、目の下が腫れ上がっている。明らかにやつれた様子だ。
「なんだ…これが俺か…。」
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105.1 第百二話 前半



「え…い・岩崎さん?」
横に座っていた京子は相馬の第一声に驚きを隠せない様子だ。
「あ…おじゃましました。」
相馬は電話を切ろうとした。
「待って。」
「え?」
「…ありがとう。」
「え…。」
「相馬くんが言ったとおり、自分だけを見てくれる人に私の思ってること話した。」
「あ…おう…。」
京子が相馬の顔を覗き込む。彼は彼女に頷いてみせた。
「けど…。」
「けど?」
「彼…私の隣で戸惑ってる。」
「…え…ちょ…待って…。」
どういうことだ。自分の思いを告げたならば後はその返事を聞くだけだ。まさかこの展開は土壇場で長谷部が岩崎を受け入れることが出来ないとの判断を下したためのものとでも言うのか。相馬は言葉に詰まった。
「それだけ。ついでだから相馬くんに報告しとこうと思って。長谷部君に替わるわね。」
自分はよりによって岩崎の告白のタイミングで長谷部に電話をかけてしまったというのか。相馬は気まずくなった。しかしそれにしても何故、その最悪なタイミングでかけた電話に長谷部ではなく岩崎が出たのだろうか。
「おう…相馬…。」
「わりい長谷部。俺電話切るわ。」
「待てま。」
「え?」
「ありがとう。」
わけがわからない。岩崎も長谷部もなぜ自分に礼を言うのか。
「よく分からんけど、お前、俺のこと彼女に推してくれとってんな。」
「…あ…。」
「本当にありがとう。おかげで俺は彼女の気持ちとかいろいろ聞くことができた。」
「おう…。」
「俺は彼女にできるだけのことをやってあげたいと思う。」
良かった。岩崎からの告白は成功のようである。胸をなでおろした相馬は隣りに座る京子に再度頷いてみせた。
「けどな…。」
「あ?」
「本人前にしてここで言うのもなんやけど。正直、俺だけで受け止めきれるかわからん。」
「え?」
「わからんげん。…なぁ相馬…。」
「…なんや。」
「お前も力貸してくれんけ。」
「え?俺が?」
「ちょっと…相馬くんは関係ないじゃない。」
麗が横から口を挟んだ。
「いいから。黙って。」
「何で?だってそんなことしたら…。」
ちょっと待ってくれと言って携帯のマイクを指で抑えて彼は麗を見た。
「俺ひとりでそのイマガワって奴をどうこうできるなんて思えん。何をどうするのが下間さんにとってベストか、第三者の客観的なアドバイスがほしい。」
「でも…。」
「下間さん。俺は君をなんとかしたいんや。」
長谷部の真剣な眼差しに麗は黙った。
「相馬ってああ見えて大局観とかけっこう良いげんて。んでそん中で自分がどう立ち振る舞えばいいかの判断が優れとる。こういう奴は情勢を客観的に見る力に優れとる。俺はいま冷静に物事を考えられる状態にない。ほやからあいつの力を借りたい。」
「でもそれって、私がいま長谷部君に言ったこと…相馬くんにもって話じゃない?」
長谷部は頷く。
「だってイマガワって奴はその家政婦の息子に何の躊躇いもなく二発の銃弾を撃ち込むことができる恐ろしいやつねんろ。そんな奴相手に俺らみたいな素人がなんかできるとは思えん。」
「…どういうこと?」
「ちゃんとした人の力を借りんといかん話や。」
「ちゃんとした?」
「うん。」
「え?それってどういうこと?」
「警察の力を借りる。」
「え?」
麗の身体が硬直した。
「ほら京子ちゃんおるやろ。」
「う…うん…。」
「あの子の親父さん県警のそこそこのポジションやったはずや。」
「え?」
「相馬も京子ちゃんももともと剣道部で警察の人に知り合いが居るとかおらんとか言っとったくらいやから、なんかのツテがあるはずや。そこを頼るのもいいかもしれん。」
「警察…。」
麗の顔が青ざめた。
「どうしたん?」
「まさか…片倉って…。」
「え?何?下間さん京子ちゃんの親父さんのこと知っとらん?」
「あ…いえ…別に…。」
「とにかく可能性がある方に協力を仰ぐのが一番やと思う。」
長谷部は携帯を再び耳に当てた。
麗の方は半ば呆然とした様子である。
「そんな…。」
「あぁ相馬すまん。いまお前どこにおらん。」
「俺?俺はその…。」
「どこいや。」
「あの…京子ちゃん家…。」
「へ?」
長谷部は素っ頓狂な声を出してしまった。
「悪いか…。」
「い・いや…別に…。」
電話の向こう側の意外なシチュエーションに長谷部はドギマギした。しかし彼は何かを閃いたのか思わず手を叩いた。
「ってことはそこに京子ちゃん居れんな。」
「あ…ああ。」
「こいつは願ったり叶ったり。」
「あん?」
「お前ら2人、今からちょっとだけ身体貸してくれんけ。」
「今から?」
「おう。どうしても力貸して欲しいげんて。」
「どういう力ぃや。」
「知恵とコネ。」
「知恵とコネ?」
「確か京子ちゃんの家ってお前の家の近所って言っとったな。俺、彼女の家知らんし、お前んち今から行くから頼む。」
そう言って長谷部は一方的に電話を切り、サイドブレーキを降ろしてアクセルを踏み込んだ。
「警察…。」
再びこの単語を漏らした麗の表情は浮かないものである。
「下間さん。君はツヴァイスタンの人間。どういう経緯でその国交のない国の人が岩崎香織っていう別人を語ってここに居るのはわからん。けどそれは明らかにマズいことや。」
「…。」
「法律の云々は俺は良くは分からんけど、警察にこれがバレたら君は多分強制送還とかなんかになる。」
「長谷部君…あなた…私を警察に売ろうってわけ…。」
「違う。それ以前に君にはイマガワっていう恐ろしい重しがある。何の躊躇いもなく家政婦の息子に二発の銃弾を撃つことができるような奴や。ある意味ヤクザなんかよりもたちが悪い。まずはこの危険なものから君を遠ざけて、安全を確保せんといかん。」
「そんなこと言ったって…。」
「何言っとれんて!下間さんに何かがあったら元も子もないやろ!」
長谷部は麗を一喝した。
「下間さん。なんで俺に自分の生い立ちのこと喋ったん。」
「え?」
「正直疲れとれんろ。岩崎香織を演じるのが。」
「…。」
「正直、さっきの話は未だに信じられん。でも…反面嬉しい。」
「嬉しい?」
「だって仮面をとってくれたんやから。本当の君を知ることができたんやから…。」
麗は沈黙した。
海側環状線にある長谷部の車は速度を上げた。

電話を切られた相馬は複雑な表情だった。
「長谷部どうやって?」
「今から俺ら迎えに来るって。」
「え?」
「あいつ京子ちゃんち知らんから俺んちに来るって。」
「何しに?」
「なんか分からん。でもなんかいつもと様子が違う。」
「どう。」
「本気で俺らを頼っとる。」
「俺ら?俺らって私も?」
相馬は頷く。
「なんで私も?」
「…多分、岩崎さんのことじゃないが。」
「岩崎さん?」
「うん。」
「え…まさか…あいつ香織ちゃんが下間の娘って…。」
「分からんよ。でもなんかそんな気がする。」
京子は腕を組んだ。
「それで知恵とコネか…。」
「知恵っていうのもよく分からんけど、コネって…。」
「周のコネってアレじゃないが。」
「あん?」
「ほらテレビ。」
「あ・おう。」
「さしずめ私は文脈から言ってお父さんの方面かな。」
「警察か…。」
「周ってバイト先の人と連絡とれらん?」
「まぁ一応。携帯は知っとる。京子ちゃんは?」
「…一応お父さんやし。」
「…行くか。」
時計を見た京子は相馬の誘いに頷いて応えた。
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