2016年10月10日

114.2 第百十一話 後半



「ごくろうさん。」
「ったく人使い荒ぇな。トシ。」
熨子町のとある住宅の前で煙草を咥えていた古田の前に、同世代の男性が現れた。
「俺も爺さんねんぞ。もうちょっとほら、依頼する要件を吟味せいま。」
「いやいや。熨子山のプロである鈴木大先生以外に誰に頼めって言うんや。」
「けっ。」
「夜の山舐めんなってお前むかしワシに説教したいや。素人のワシが夜のあそこに入り込んだら間違いなく崖から転落、身動きとれんくなって凍死や。」
「だら。こんなクソ暑いがに凍死なんかせんわい。」
首に巻いたタオルで鈴木は顔を拭いた。
「首尾よくいったか?」
「首尾よくかどうかは分からんけど、気分は良いもんじゃねぇな。」
ペットボトルの飲料を古田から手渡された鈴木は勢い良く飲んだ。
「しっかしこんなんで本当に何かの効果あるんか?」
「さぁ…わからん。」
「卯辰山側から熨子山の山頂を通って、金沢北高に抜けるルートっちゅうけどな。本当にあいつこのルート通るんかいや。」
「分からん。ほやけど人目につかんように北高に行くっちゅうたらそのルートしかないがいや。」
「まぁ。」
腰をトントンと叩いた鈴木は暗闇に薄っすらと見える熨子山の姿を見つめた。
「しかし…鍋島がね…。」
「ああ。結局、熨子山事件は北高の剣道部連中のいざこざが原因。あすこの落とし前はあすこでつける。これに佐竹はこだわっとる。」
「それに鍋島も乗ってくるってか。」
「ほうや。」
「なんでそう言い切れる。」
「鍋島は常に佐竹の動向を監視しとった。仁熊会を使ってな。」
飲料を飲み干した鈴木はため息をついた。
「なんであいつがそこまでして佐竹の動向を気にかけるか。そこは正直ワシにもわからん。そもそも佐竹も鍋島に対してなんでそこまで執着するんかもわからんしな。」
「北高剣道部の因縁ちゅうもんは厄介なもんやな...。」
「ああ厄介や。おかげでいらん仕掛けが必要になってくる。」
「けどその因縁浅からぬ佐竹やからこそ鍋島を引っ張り出せるっちゅう面もあるんやな。」
「ほうや。さすが鈴木先生。理解力がぱねぇな。」
「ぱねぇって…トシ。お前どこでそんな妙な言葉覚えてんて。」
古田はポリポリと頭を掻いた。
「仁熊会はどうなんや。」
「あぁあいつらはもう鍋島と接点を持っとらん。」
「そうなん?」
「鍋島はどうやら今川らとうまくいっとらんようや。むしろ鍋島はあいつらからその生命すら狙われる状態。」
「粛清ってやつか。」
「おう。そんな状況の鍋島が今川らの協力者である仁熊会に協力を仰ぐなんか考えられん。鍋島はいまは単なる一匹狼や。」
「なるほど。相手がチームでかかってきたら厄介やけど、単騎なら囲い込みも可能ってか。」
「ほうや。一匹ずつ確保。」
「鍋島は常人では理解し難いほど頭脳明晰。んで何か知らんけどわけの分からん眼力も持っとる。」
「おう。いくらあいつには味方がおらんって言っても、あいつは普通の人間じゃない。ほやから普通に接したらむしろこっちが逆襲される。」
「ほんでこいつか?」
鈴木は何枚かの写真を古田に渡した。それを受け取った古田は何も言わずにポケットに仕舞った。
「すまん...。」
「俺は別になんてことはねぇ。けどな、あの山で命を落とした連中とかのことを考えるとな…。」
「...鈴木。」
「あん?」
「お前、ワシに言ったよな。」
「何を?」
「3年前、お前、熨子山事件の犯人をぜってぇパクってくれって。」
「…ああ。」
「ワシはその約束をまだ果たせとらん。」
「ふっ…。」
「今度こそは真犯人をパクる。」
二人の前の家の玄関扉が開かれた。現れたのは身重の女性だった。
「あぁすまんすまん。今戻る。洋子は早く休め。」
鈴木にこう言われた女性は軽く頭を下げて家の中に引っ込んだ。
「孫か。」
「まあな。」
「あれから3年…。時が経てばいろいろ変わるもんやな…。」
「現役の時は仕事仕事っていって家族から逃げ回っとった俺が今ではこの熨子町に嫁さんと移住。洋子は出産のために里帰りや。」
古田は煙草に火をつけた。
「3年前、間宮と桐本は熨子山の山頂で殺された。一方、あいつらと同世代のうちの娘は無事結婚し出産を控えとる。」
「…。」
「一般の市民にそういう事件に巻き込まれんように手を尽くすのが俺ら警察の仕事やったはず。ほやけど何の因果か一般市民よりもサツカンの身内のほうが順調な人生を過ごしとる。」
古田は煙を吹き出した。
「鈴木。自分を責めんな。お前が引き受けることじゃない。」
「…。」
「ワシらの不祥事はワシらで落とし前をつける。せめてそれくらいせんとワシらはあの世で間宮と桐本に弁明すらできんわい。」
「トシ…。」
「もちろん一色と村上にもな。」
posted by 闇と鮒 at 01:00| Comment(0) | ポッドキャスト | 更新情報をチェックする
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