2016年12月31日

127.2 第百二十四話 後半



7時間前 12:00
「1512室ですか?」
「はい。」
「失礼ですがお名前をお願いします。」
「岡田と言います。」
「岡田様ですね。失礼ですがお名前もいただけますか。」
「圭司です。」
「岡田圭司様ですね。しばらくお待ちください。」
ホテルゴールドリーフのフロントの女性は受話器を取って電話をかけはじめた。
「フロントです。ロビーにお客様がお見えになっています。はい。ええ男性です。岡田さんとおっしゃるそうです。ええ。はい。かしこまりました。それではお部屋までご案内致します。」
女性は電話を切った。
「私がご案内いたしますので、一緒に来ていただけますか。」
「え?どこか教えてくれれば自分で行きますけど。」
「当ホテルのスイートルームになりますので、私がご案内いたします。」
「スイート?」
エレベータを5階で降りそのまま廊下をまっすぐ奥に進むと、いままであった部屋のものとは明らかに作りが違うドアが現れた。重厚な作りの観音扉である。女性はインターホンを押した。暫くしてその扉は開かれた。
「おう。」
「え?」
扉を開いたのは数時間前まで捜査本部に岡田と一緒にいた、県警本部の捜査員だった。
「え…なんで?」
「まあ入れま。」
豪華な作りの玄関を抜け、いよいよ部屋の中に入るという時に岡田は異変を感じ足を止めた。
「あれ?おいどうした。」
「あの…なんか騒がしくないですか。」
「ほうや。訳あって大所帯になっとる。」
捜査員が部屋の扉を開くとそこはくつろぎの空間というより会議室だった。上座中央には最上が座り、その隣に土岐が座っている。
「よく来たね岡田くん。」
「本部長これは一体。」
「土岐くんは君に紹介するまでもないね。」
「え…ええ。」
「じゃあこちらから紹介しよう。まずは県警本部警備部公安課の神谷警部。」
最上の紹介にあわせて神谷は頭を下げた。
「え?公安?」
「次に同じく警備部公安課の冨樫警部補。」
「冨樫です。よろしくお願いします。」
「そして冨樫くんの前に座っているのは…。」
岡田は思わず目をこすった。
「み…三好…さん?」
三好は岡田を見て笑顔で会釈をした。
「なんで…。」
「岡田くん。まぁ掛けてくれ。」
最上に促されて岡田は席についた。
「岡田くん。君をこの席に呼んだのはほかでもない。先程も言ったように君には最後の仕上げをして欲しいんだ。」
「あの…本部長。」
「岡田くん。君は「ほんまごと」の記事が真実に迫るものがあると言った。」
「あ、はい。」
「その根拠は君が信頼する人間が紹介してくれた奴が、あの記事を書いているからと言った。」
「はい。」
最上は立ち上がった。
「その君が信頼する人間ってのは片倉くんだ。」
「え?」
「県警警備部公安課課長、片倉肇くんだよ。」
「公安課課長?」
「そうだ。民間企業の営業マンじゃない。彼はれっきとした警察官だよ。」
片倉は警察をやめ警察OBが経営する会社の営業になった。この情報しか持ち合わせていなかった岡田は最上の言葉がにわかには信じられない。
「岡田くん。ほんまごとを読んだだろう。あれは片倉くんによる公安警察の捜査内容そのものなんだ。病院横領事件、一色の交際相手の強姦事件、熨子山事件、鍋島の生い立ち、村上殺害の謎、ツヴァイスタンの工作活動実態、背乗り、金沢銀行の不正プログラムなどなど、あの全てが片倉くんによって黒田にリークされた。」
「ほ…本当ですか。」
「本当だ。」
岡田は唾を飲み込んだ。
「初見であの記事を完璧に読み解くのは困難だ。なにせ情報量が多すぎる。記事自体は衝撃的な内容が目白押しだが、熨子山事件をずーっと追っている人間ぐらいしか読み解けない内容になっている。だが長年デカをやっている勘のいい君はあれを読み解いたんだろう。」
「…警察の中にもツヴァイスタンの協力者がいる。」
「…さすがだね。」
「居るんですか。」
「正確に言うと居た。」
「居た?」
「ああようやくパクったよ。ついさっきね。」
「ひょっとして…その協力者は…。」
「朝倉忠敏。」
「…やっぱり。」
「朝倉はついさっき片倉課長の手で逮捕されたよ。」
「どこでですか。」
「公安調査庁の中で。」
「公調の中で?」
「うん。」
後ろ手に組みながら最上は部屋の中をゆっくりと歩き回る。
「本件捜査はチヨダ直轄マターでね。極秘裏に進められていた。本件捜査のコードネームはimagawa。」
「イマガワ…。」
「imagawaは朝倉を中心としたツヴァイスタン関係者を一斉検挙するのが目的の捜査だ。その詳細は話せば長くなるからここでは君に説明しないよ。それよりもだ。」
「はい。」
「実はこのimagawaはまだ終結していないんだよ。」
「本丸の朝倉がパクられたと言うがにですか?」
最上は頷く。
「ほんまごとの中に村井という人物の名前が出てきただろう。」
「村井?ですか?」
「ああ。<Sと少年>という行に出てきている。」
岡田は記憶を辿った。
「あ…ありました。Sの調査助手をしとるとか言った…。」
「そうだ。その村井をその目で見た男がここに居る。」
何かに気がついたのか。岡田は席上の一人の男を見た。
「そう。Mこと三好元警備課長だ。」
こう言って最上は再び席についた。
「ついては岡田くん。君にはこの村井の検挙をお願いしたい。」
「罪状は。」
「現行犯であればなんでもいい。」


「どうやそっちは。」
「スタンバイOK。」
岩崎がステージの中央に立った。そして参加者に対して一礼すると会場は割れんばかりの拍手で覆われた。
「香織っ!」
ステージとは対極にあるホールの入口が開かれ、ひとりの学生風の男が突然現れた。
「香織…こんなところで何やっとれんて…。」
男は力なくステージに向かう。彼が進む先の参加者の群衆は2つに割れ、岩崎への道を作り出した。彼はその道をゆっくりと進む。壇上の岩崎は戸惑いを隠せない。
「何なんや…。これ…。お前こんなキモい会の運営なんかやっとったんか。」
男のキモいというフレーズに会場内は凍りついた。
「最近連絡が取れんと思っとったら、こんなとこでお前は不特定多数の男連中に色目使ってチヤホヤされとったんか.。」
「おい何だあいつ。」
村井がスタッフに尋ねた。
「...わかりません。ヴァギーニャって彼氏とかいましたっけ?」
「いや聞いたことがない。」
「追い出しますか。」
「ああそうしろ。」
複数のスタッフが男を取りおさえるために駆け寄る。すると男は壇上めがけてダッシュした。
そして岩崎を背後から羽交い締めにした。
「おい!何やってんだ!」
男の手にはサバイバルナイフが握られている。彼はそのナイフを岩崎の背中に突きつけた。
「あ…。」
会場は凍りついた。岩崎は男によって人質に取られたと会場の全員が理解した瞬間だった。
「お前らふざけんな。香織は俺のモンや。香織はオメェらみたいなキモオタなんか眼中にねぇんだよ!」
「おい落ち着け。」
村井が男に声をかける。
「あん?」
「落ち着け。ひとまずその物騒なものを置け。」
「あんだテメェ。なんで俺に命令なんかすれんて。」
「命令じゃない。ナイフを床においたらどうですかって提案してるだけだ。」
「気に食わん。」
「じゃあどうしろと?」
「香織を殺す。」
「え?」
「香織は俺のモンや。オメェらにはぜってぇやらん。」
「ちょ…待て。」
村井が声を発する前に男が持つナイフの刃が岩崎の背中に入り込んだ。そしてそのまま岩崎は床に倒れた。
今まで見たこともない状況が目の前で起こった。会場の全員は状況をまったく飲み込めない。ただ沈黙が流れる。しかしそれはある参加者の悲鳴で解かれることとなった。コミュの運営スタッフは全員で男を取り押さえた。
「へ…へへへ…ざまぁ。」
ヘラヘラと笑いスタッフに連行される男とは対象的に岩崎はピクリとも動かない、ようやく運営スタッフが彼女に駆け寄り声をかけた。しかし反応はない。何度も何度も声をかけ体を擦るも反応はない。その様子を見ていた参加者たちがここで感じたのは岩崎の死だった。
「みなさん!落ち着いて!」
村井が声をあげた。
「皆さん落ち着いて下さい。いま救急車が来ます。僕らはそれに望みを託すしかありません。」
岩崎の側のスタッフは諦めずに彼女の名前を呼び続ける。
「男はこちらで取り押さえました。既に警察に通報しました。これも救急車同様もうすぐ来るでしょう。ですが…」
村井は言葉に詰まった。
「…なんで…なんでこんなことが起こってしまうんだ…。彼女は前から警察に相談していたはずだ…。」
村井の言葉に会場はざわつく。
「みなさん。岩崎は以前から警察に相談をしていました。ストーカーに付きまとわれていると。ですが警察はそれを取り合ってはくれませんでした。その結果がこれです。そしてこの結果を作り出した警察がこの事件の捜査をおこなうんです。なんなんでしょうか!?泥棒が泥棒を捕まえるってまさにこのことじゃありませんか?こんな職務怠慢が放置されていていいんでしょうか?良い訳ありません。絶対に撲滅するべきです。」
そうだそうだと村上に同調する声が上がった。
「岩崎はヴァギーニャです。我々の女神です。この女神に危害を加えさせることになった警察の不手際は不手際という簡単な言葉で片付けられていいんでしょうか?」
会場のものたちは首を振る。
「そうです。そんな言葉で許されるわけがないのです。第一考えても見て下さい。あの警察機構というのは権力そのものです。権力は絶対的に腐敗します。この事件はその腐敗もここまできていると言うことの証左でもあります。」
みな村井に同調している。
「我々は既得権者や権力者から数々の迫害を受けています。彼らが私たちにこういった仕打ちをするのは、裏を返せばそれだけ奴らにとって我々は都合が悪い存在だということを示しています。都合が悪いと思われるのは我々が一定の影響力をもっているからです。奴らは我々を脅威に思っているのです。それは翻って言えば我々は強いということです。我々は強い。強い我々は奴らを打倒するために今こそ行動を起こさなければなりません!」
会場から歓声が上がった。村井の演説が会場を一体化させた。
「ヴァギーニャの命に変えても革命を成し遂げる!我々は今こそ立ち上がるときだ!我こそはと思うものだけが私に続け!私の考えに同調しないものは、今すぐこの場から去れ!」
村井の言葉に殆どの参加者が賛同していたが、中にはやはりこの異様な空気についていくことができずに会場を後にするものもいた。しかし彼らはことごとく会場外で運営スタッフに止められ別室へと連れられていった。
「村井さん!」
参加者の一人が声を上げた。
「なんですか。」
「村井さんのおっしゃるその革命はどうやってなし得るんですか。」
「聞きたいですか。」
「ぜひ。おそらくここにいる皆も聞きたいと思っています。」
参加者は村井を見つめている。彼は深呼吸をしてゆっくりと口を開いた。
「暴力によってのみ革命は成し得る。」
「暴力?」
「ええ。」
「…村井さん。詳しく聞かせてくれませんか。」
「残念ながらここにいる皆にとはいきません。」
「じゃあ私にだけ聞かせてください。」
「君だけに?」
「はい。」
参加者たちからブーイングが起きた。村井はそれを制止する。
「どうして君だけに?」
「今川さんから言われています。」
「今川…。」
村井の表情が変わった。
「ぜひその任を私に。」
「あなたの名前は?」
「岡田です。」


posted by 闇と鮒 at 18:00| Comment(0) | ポッドキャスト | 更新情報をチェックする
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